Inagaquilala

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

4.0
邦題は「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」だが、原題は「The Post」。「Post」とは、もちろん、この作品の舞台となった「ワシントン・ポスト」。のちにボブ・ウッドワードとカール・バーンスタイン両記者による「大統領の陰謀」で有名になった新聞社だ(映画はアラン・J・パクラ監督により、ダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードの主演でつくられた)。「大統領の陰謀」で描かれたウォーターゲート事件が起きたのは1972年だが、この作品が扱っている「ペンタゴン・ペーパーズ」の報道は、それに先駆ける1971年。物語の主人公は、夫の急死で、主婦からいきなり「ワシントン・ポスト」紙の社主となったキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)で、「The Post」という題名は、彼女の就いた「役職」のことも指しているのかもしれない。

実はこの作品の脚本はリズ・ハンナという女性が書いたもので、映画化されていない優秀な脚本である「ブラックリスト」の2016年度の第2位にランクされていた。それを女性プロデューサーのエイミー・パスカルが映画化を試み、スティーヴン・スピルバーグと長年仕事をしてきているこれも女性のプロデューサー、クリスティ・マコスコ・クリーガーと組んだ。スピルバーグもすぐさまこの脚本には強い関心を示し、現在進行している作品を一旦ストツプして、この作品を監督することにしたという。主演のメリル・ストリープも一読で出演を決めた。いわば、スピルバーグ以外は女性たちの強力なタッグのもとで、つくられた作品なのだ。

物語は、政府の機密文書であるペンタゴン・ペーパーズを報道するかしないかのキャサリン・グラハムの煩悶と意志を描いたものだが、彼女のバックストーリーを丁寧に描写しながら、スリリングに決断のドラマが展開していく。またトム・ハンクス扮するベン・ブラッドリー編集主幹との、目に見えない紐帯のようなものも見事に描かれている。脚本は「スポットライト 世紀のスクープ」のジョシュ・シンガーがブラッシュアップしたようだが、メディアや政府機関の細部までがきちんとフォローされており、見応えも充分だ。報道とは何かを考える意味で、格好の作品となっている。

もちろんエンタテインメントとしても、さすがスピルバーグと思わせる部分もある。期待に違わぬ展開と、とくに印象深かったのは、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「グリーン・リバー」で始まる冒頭のベトナムでのシーン(コッポラの「地獄の黙示録」を思い出した)と、かなり意味深な事後に続くラストシーンだ。いろいろな仕掛けも施された全体の構成も、急遽、製作されたにもかかわらず、隅々まで考え抜かれている。とにかく最後の最後まで、観ることの興味が持続する硬派なドラマだ。
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