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ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書のYYamadaのレビュー・感想・評価

3.9
【監督スティーブン・スピルバーグ】
第31回監督作品
◆ジャンル:  
 史実・社会派ドラマ、サスペンス
◆主な受賞歴
・ナショナル・ボード・オブ・レビュー:
 作品賞/男優賞/女優賞
・AFI: ムービー・オブ・ザ・イヤー
 
〈見処〉
①2大オスカー俳優が初共演、
 マスコミの存在意義を示す史実ドラマ
・『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、2017年にアメリカ公開されたサスペンス映画。
・舞台はベトナム戦争が泥沼化し、反戦の気運が高まる1971年のワシントン。ベトナム戦争を分析した国防省の最高機密文書=「ペンタゴン・ペーパーズ」をニューヨーク・タイムズがスクープし、政府の欺瞞が明らかにされる。
・一方、ライバル紙のワシントン・ポスト紙は、編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)らの奔走にて、なんとか文書を手に入れたが、ニクソン政権はニューヨーク・タイムズに記事差し止めを要求。
・新たに記事を掲載すれば、ワシントン・ポストも「戦争中における政府の機密漏洩」の罪に問われることが危惧され、記事の掲載を巡り、経営陣とブラッドリーら記者たちの意見は対立。亡き夫に代わり社主に就任していたキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は、経営か報道の自由かの間で難しい判断を迫られる…
・本作は、政府がひた隠す真実を明らかにすべく奔走した人物たちをスティーブン・スピルバーグのもと2大オスカー俳優メリル・ストリープとトム・ハンクスの初共演作として、サスペンス調に描いた史実ドラマである。
・なお本作は、1993年の『ジュラシック・パーク』と『シンドラーのリスト』同様に、スピルバーグの次作『レディ・プレイヤー1』のポスト・プロダクション(特殊効果)作業の合間に製作。2017年5月30日に主要撮影を開始し、11月6日に完成。スピルバーグ史上「最も短期間で完成」 した作品だそうだ。(wikipedia調べ)

②全国紙と地方紙の権威
・本作の原題『The Post』は、ワシントン・ポストの通称名に由来。
・1877年創刊のワシントンD.C.地区の地方紙(日刊紙)である同紙の発行部数は25万部。全米6位の発行部数でありながら、日本に置き換えれば「福島民報」や「岩手日報」などの中堅地方紙と同じ規模。
・ただし、米国の首都ワシントン最大の新聞として国家政治に重点を置き、現在では世界的影響力を与える「高級紙」として分類。
・しかしながら、本作にも登場する告発者エルスバーグは「ニューヨーク・タイムズだけが全研究を発表する可能性と威信もあった」全国紙と評価され、1971年当時のワシントンポスト紙は、歴代政権との強いコネを持ち、政権寄りの報道が多い「御用聞きの地方紙」。
・また、本作で描かれている時代のポスト紙は、更なる拡大のため株式公開を行い、大衆に受け入れられる記事の模索をしている時期でもあり、「ペンタゴン・ペーパー」掲載の決断にて「政治家よりの古い新聞」から脱却を世間に示すことに成功。
・本作のラストでは「ウォーターゲート事件」を想起させるニクソン政権の隠密会話が登場するが、史実においてもポスト紙はウォーターゲート事件の追及で国際的な名声を獲得。70年代後半には「ポトマック河畔のプラウダ(ソ連共産党新聞)」と呼ばれるほど、左翼的傾向を強くすることになる。
・ワシントンポスト紙は、現在のオーナーであるAmazon.com創業者のジェフ・ベゾスのもと「暗闇の中では民主主義は死んでしまう」をスローガンにトランプ政権と対立する構図にあるが、そもそも共和党との対立は本作で描かれる事件が契機となっている(はず)。

③結び…本作の見処は?
○: 史実に基づくストーリーを非常にドラマティックに描く。『ミュンヘン』(2005)とのスピルバーグ演出の違いを比較すると作風の広がりを感じる。終わり方もサスペンス仕立で秀逸。
○: ボストン・グローブ紙を描いたアカデミー作品『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)よりも万人に分かりやすい。「分かりやすさ」ではスピルバーグは最高峰だと感じる作品。
○: スピルバーグ監督作5作目となる本作のトム・ハンクスは、毒気のある等身大キャラクター。演技幅の広さを披露している。
○: スクープ記事のソースを開拓したポスト紙編集次長を演じるボブ・オデンカーク、ポスト紙の顧問弁護士、ジェシー・プレモンス。『ブレイキング・バッド』キャストの登場は嬉しい。
▲: 作品としてのマイナス点はないが、史実は、そんなにドラマティックな事件ではない気がする。。
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