エミさん

蜘蛛の巣を払う女のエミさんのネタバレレビュー・内容・結末

蜘蛛の巣を払う女(2018年製作の映画)
2.4

このレビューはネタバレを含みます

北欧の冬の様な、静かで重たくジワジワと訪れるザワザワ感。原作自体の不満を抜きにすれば、リスベットをまた少し知る手掛かりになる素晴らしい映画でした。

アグレッシブな演出で度肝を抜いたデビッドフィンチャー版の前作から7年が経過して完成した、この作品。その間に大きな変化があった。原作者スティーグ・ラーソンが旅立ち、代わってダヴィド・ラーゲルクランツが原作の続編を引き継いだ。この映画は原作『ミレニアム』シリーズの4作目、ラーゲルクランツの作品を元に作られている。何もかもが変わっての心機一転制作。やはり全員が気になるところは、もろもろ前作との比較であろう。

SONYの事情で予算が削られ、2作目、3作目をすっ飛ばして、何故か4作目が先に映画化されている。
デビッドフィンチャーは総指揮止まりで、監督はフェデ・アルバレスに変わり、リスベット役も、ルーニ・マーラからクレア・フォイに変わった。
内容は基本的には原作に忠実でしたが、映画の時間内に収めるために、とにかく沢山端折られている!!
(ノд`)**
もう。「それでも、作るんですか!?」と問いたくなるくらい…。
説明まがいのセリフで時間短縮?。そして冒頭、リスベットのつかみが終わった後に、オープニングっぽい映像が流れた所に、まるでサブリミナルみたいに大事なキーワードがバックに沢山表示されていて、「やりやがったな…」という怒りを感じました。あんな一瞬で、原作を読んでいない人は把握出来ませんよ…。ギリギリついていけるように脚本と映像演出が上手に構成されているものの、万人受けする様な作品ではないな〜というのが正直な印象でした。
でも、この映画の全体が発している、暗く寒々しい北欧独特の印象は、ノオミ・ラパスがリスベットを演じたスウェーデン版制作の映画に近く、コアファンとしては嬉しい演出。ハリウッド版のアグレッシブに展開されていくのと比べて、サスペンスがじわじわと静かに、でも確実に確信に近付いていく高揚感があって、『ドント・プリーズ』っぽくて、アルバレス監督の演出ならではの世界だなぁと思えました。

残念だと思ったのは、人工知能の密売ネタに大分、時間を割いていたので割愛が多過ぎると思ったこと。

ミカエルのダメ男っぷりが控えめだった。ミカエルは買収されたことで出版社を干され、バルデル教授の助手から依頼を受けてこの事件と関わることとなります。

アウグストのサヴァン症候群という特徴も文字によるサブリミナル映像のみ。リスベットがNSAをハッキングして見つけた米国国家情報局の暗号ファイルについても描写が割愛されてましたが、バルデル教授の核プログラム同様、これもアウグストによって解読されています。

NSAセキュリティー担当のステファンが出てきたことで、大分、NSA寄りの話になっていて、リスベットの家族の話だとかロシアの組織の話も少々しか描写されていませんでした。

リスベットの、過去を捨てた閉ざされた様な孤独な印象というのは共通しているけど、ルーニ・マーラが作り上げたハードロックなリスベットも、クレア・フォイが作り上げたハードコアなリスベットも、どちらも興味深かったし、フィンチャーとアルバレス、出来栄えには静と動ほどの違いがあるのに、原作に愛着があり過ぎる所為で、どちらにもそれぞれの良さを感じて甲乙がつけ難く結局、映画化してくれるだけで有難いという境地にまでいってしまった。いろんなバージョンの面白さを感じてこそ、シネフィルの醍醐味と言えるのでしょうね。
次回作の製作が決定しており、シリーズ5作目は、今作以上にリスベットのバックボーンに迫る話なので、もう少し斬り込んだディープな作品になるとイイなぁと期待してます。