田村カフカ

アネットの田村カフカのレビュー・感想・評価

アネット(2021年製作の映画)
3.9
アダム・ヘンリー・コメディアンとしてのヘンリーや、「アネット」という映画を観る側と観せる側、映画内のコメディーやオペラを観る側と観せる側という風な、主体と客体の明らかな入れ替わりが起きる。そしてそれがミュージカルになることで、それは強調される。僕は映画を観ていて、自らの立場がどこにあるか浮遊する感覚があった。また、作り物の海や、アネットの人形が現実と夢想(あるいは象徴)の境目を現すが、境界線がどこにあるかは僕たちには分からない。これは、人格を探す迷宮の中の僕たちを、現実と夢想というさらに込み入った世界に入り込ませる機能があるように思える。確かに、作り物が象徴となっていることは明らかすぎて、少し鼻につくが、それはカラックスにとって必要な段階であるようにもおもえる。象徴が象徴として分かりづらくなってくると、カラックスの作品は映画として全く新しいものになっていくと思う。
田村カフカ

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