これがあのカラックスなのか…
栄光とは、かくも儚く、脆く、残酷なもの。
これは盛時の輝きを失い、かつての栄光を渇望しながら暗中を彷徨う、カラックス自身の物語?
必要性がまったくわからないミュージカル仕立ても、
陳腐で説明的な歌詞とセリフも、
意外に凡庸なストーリーも、
なぜか子供が球体関節人形なのも、
笑えないコメディショーも、
オープニングとエンディングの挨拶も、
すべてが滑稽で寒い。
「ポンヌフの恋人」が大好きだった。
だから「アネット」もどこか誉めたいと思うけど、誉めるところが見つからない。
子供が人形なのは、ヘンリーに本当の愛情がなかったから、
だとか、
アンがいつもリンゴを食べているのはアダムとイブの…
とか言い出す人がいそうだけど、たぶんそんな深い意味はないと思う。
あるとしたら、それもまたわざとらしくて滑稽。
「ボーイ・ミーツ・ガール」や「汚れた血」など、カラックス監督の作品は、もともと典型的な「わけのわからないフランス映画」だった。
けれど、そこには理屈を超えて人を惹きつける力があった。
技巧を超えた天才的な感性があった。
不可解さとともに、激しさと美しさがあった。
詩的な表現の中に、真理があった。
初期〜中期の作品が好きだったからこそ、今回の「アネット」に対する失望感は大きい。
あるいはただ、時代の先を行く天才カラックス監督に、自分がついて行けてないだけなのかもしれない。
とにもかくにも、自分にはまったく響かない作品だった。