hawelka1992

アネットのhawelka1992のネタバレレビュー・内容・結末

アネット(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

レオス・カラックスの映画「アネット」を観た。異様なミュージカル映画であったが、見たことのない映像でとても興奮した。
主人公はアダム・ドライバーが演じるコメディアンのヘンリー。天才オペラ歌手のアンと恋に落ち、幸福の中、娘アネットが生まれる。しかし、アンは次第にヘンリーに恐怖心を抱き、ヘンリーは不謹慎な発言から没落していき、アンに嫉妬を覚える。その後、アンが事故死し、ヘンリーはアンの悪夢を見て、罪悪感にさいなまれる。アンの呪いのためか、赤ん坊のアネットが美しい歌声で歌えるようになる。ヘンリーは二人が付き合う以前にアンと関係をもった伴奏者とともにアネットを世間に差し出す。アネットは大人気になるが、伴奏者がアネットの父である可能性を示唆し、彼を殺す。アネットの最後のステージでアネットに殺人者であることを告発され、刑務所に入る。最後に人形として描かれていたアネットが現実の役者となり、ヘンリーとアネットの最後の歌の掛け合いで、「あなたはもう誰も愛することができない」と言われ、絶望し物語は終わりを迎える。
カラックスは自伝的な映画を撮る監督として名高く、最初のシーンでは本人と娘が登場している。また、かつての恋人が売れ、妻がなくなり、親友であった撮影監督と袂を別ったことなどが今回の映画に重ねられる。
最初から最後まで、いままでの映画のフォーマットとは異なる映像をずっと見ていたようだった。ミュージカルという枠組みも、今流行しているが、時代の潮流を先取りしていたといえるだろう。特徴的なのは独自の配色である。明らかにヘンリーは緑、アンは黄色をパーソナルカラーとし、その他捕色である赤を多用しているが、アネットのパーソナルカラーはない。芸術家として創造の世界に生きるものは、派手な原色を身にまとうが、子育て、生活といった事物のすべてはビビットなものではない。最後の告白で想像力は止めることはできないとヘンリーは主張し、あなたには誰も愛することはできないとアネットは拒絶する。カラックス自身の、ひいては演者ないしは観客の、芸術や異性への愛の歪さやまがまがしさを見事に描いていると思った。通常のフォーマットを刷新することで、逆説的に映画的な映画であると思う。
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