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アネットのayのネタバレレビュー・内容・結末

アネット(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「TOKYO!」以降のデジタル撮影、キッチュでグロテスクなメロドラマ。挑発的でブラックな笑い。個性的な振り付けやポーズ、オーバーアクションによる、役者の容姿の瞬間的な映えが印象に残る。物語の主な舞台がロサンゼルスということもあって、監督名を確認せずにみたら、誰かアメリカの作家の映画と思ってしまったかも。「ポーラX」までのフィルム時代のカラックス作品がとても好きなので、過去作を基準に考えてしまって、ずいぶん遠くに来たんだな、あの質感とニュアンスと深い余韻は戻らないんだな…というのが、まず正直な感想だった。

フェイクな願望とか衝動とか単純な物語が多くの人の本音により強く訴えるようになった今、カラックスにとって、映画で語るべき物語とその語りかたは過去作と同じままではありえないんだろうな、とも思った。

母の不在と悪い父という家族の機能不全のもと試練を引き受ける娘の構図は、どうしてもカラックス本人とその家族に重ねてしまうところがある。「アネット」の冒頭とエンドロールでカラックスに寄りそって登場するNastyaは、「ポーラX」の主演カテリーナ・ゴルベワとカラックスとのあいだにうまれた娘。カテリーナ・ゴルベワは前作「ホーリー・モーターズ」の撮影中に亡くなった。「アネット」はスパークスのアイデアが元にあったのを娘が気に入って、悪い父というテーマは脚本を書いたカラックス自身が加えたようで、何をどこまで意図してとりこんだストーリーなのかはわからない。ただ、幽霊となったアネットの母アンの姿は、「ポーラX」でカテリーナ・ゴルベワが演じたイザベルの姿とそっくりだった。

新たな人生の布石として作品を娘に示すことで、ようやく先に進める。それが「アネット」がもつ極プライベートな、前向きな意味なのかもな、と感じた。

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