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アネットのmozzerのレビュー・感想・評価

アネット(2021年製作の映画)
3.8
私にとって初めてのレオス・カラックス監督作品。

スパークスの演奏から始まるオープニングが高揚感半端ない。ここだけでも観る価値ありといっていいくらい素晴らしいオープニング。「so may we start?」は曲としても素晴らしいし、何より歌の途中からロンとラッセルが歩き始めるにつれ、アダムドライバー達が加わっていくところのカッコ良さといったらもう鳥肌ものでした!

アダムドライバーは本当に才能ある役者と再確認できた。スタンドアップコメディのシーンでコメディアン顔負けの演技を見せたかと思えば、甘いファルセットの歌声を聴かせたりもできる。あんなに歌が上手いとは正直思わなかった(笑)。しかもほぼ全編歌ってるし。

本作で描かれるヘンリーという男について考えてみた。幸せすぎるとバランスをとるかのように、不幸になってしまう人がいる。少し視点を変えたり、客観的になれればそこまで堕ちることもなかっただろうに、その場しのぎで感情的になってしまうことで自分の行いがどのような結果を招くのか考えられなくなってしまう。ヘンリーは 正にその典型と言える。よって、アネットが最後のステージでヘンリーの悪事を暴露する展開は、因果応報という他ない。

これじゃいけないと思える人は状況を変えようと努力するが、ヘンリーは次々に判断を誤って破滅への道を突き進み、その結果罪を償うことになる。そこに面会にきたアネットにあんた達夫婦(父母)のことは許さないと言われてしまうのは当然のこと。愛してると良いながら、ただ都合のいいように利用していただけだったんだから。アネットにしてみれば何を今更?と思うのも当然でしょう。そして、最後の決め台詞、「あんたには もう愛するものがない!」。意味としてはこんな不幸な状況に追いやられたアネットによるヘンリーへの最大のしっぺ返しだったんだろう。

どうしても最後まで馴染めなかったのがアネットを人形に置き換えた演出でした。文字通りアネットは両親にとっての操り人形という意味だと思ったけれど、とにかくあの人形が気持ち悪くて好きではなかった。(個人的感想ですが) 勿論そういう不気味さや気持ち悪さを観客に与える意図があったとは推測できますが。それ故、最後にヘンリーに会う時のアネットには、そういった虐待や縛りから解放された本当のアネットに戻ることができた。すなわち、ダークファンタジーということを考えると、あの面会によってアネットはヘンリーがかけた呪いから解放され、本当の自分に戻ることができたと言えるかもしれない。(途中で呪いのメタファーとしてカエルのオモチャだったかの描写があったような…)

ストーリー展開としては、アネットが最後のステージで暴露したり、ヘンリーのほんとの子供ではなかった(ホントに?)など読めてしまう部分も多かったけれど、十分楽しめる映画でした。
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