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雪道のmaverickのレビュー・感想・評価

雪道(2015年製作の映画)
4.3
2017年の韓国映画。『冬の小鳥』『アジョシ』のキム・セロンと、『私のオオカミ少年』『優しい嘘』のキム・ヒャンギの共演作。


慰安婦問題がテーマの作品。二人は強制的に従軍慰安婦とさせられる少女を演じる。題材的にも目を背けたくなるような作品ではある。だが作風はとても丁寧であり、二人を中心とした物語が胸に染み入るような話である。戦争に巻き込まれなければ、彼女らにも輝かしい未来があったのだと悲しくなる。慰安婦問題を通して、戦争が引き起こす愚かさを痛感させる作品だ。

作中において日本軍は蛮行を繰り返し、その非道な行為には同じ日本人として許せない気持ちになる。だが単に日本軍が悪者という風にも描かれてはいない。騙して拉致しようとする現地の人間がいたり、慰安所で君臨する韓国人の女将も登場する。日本軍兵士の中にも優しい者がいたりと、その描き方はあくまでフラットであったように感じる。非道な行為をする日本軍が悪いのは当たり前。だがその背景には戦争という人を狂わせる存在がある。戦争がこれを引き起こすのだということを感じさせるのだ。

二人の少女時代の話と、そのうちの一人の現在の姿との二つの話になっている。おばあさんとなった今も、過去の凄惨な出来事によって苦しみは続いている。生き残っても苦しみは永遠に消えることはない、胸が痛む話だ。このおばあさんの隣には不良少女が住んでおり、その少女との話の描き方も上手いなと思った。自堕落で自分を大切にしない生き方をする若者や、情けない大人に向けてのメッセージが込められている。あのような時代を生きた人から見れば、今の世に対して違う価値観も持てるだろう。このおばあさんの言葉にはひとつひとつ重みがある。我々も今をもっと大切に生きなければならないのだと痛感した。

キム・セロン、キム・ヒャンギ、共に天才子役である二人の熱演が素晴らしい。キム・セロン演じるヨンエは地主の娘でお嬢様。ツンツンして性格がちょっと悪い。キム・ヒャンギ演じるチョンブンは貧乏な家の娘。ヨンエのお兄さんに淡い恋心を抱いている。チョンブンは田舎臭いが純朴で可愛らしく、ヨンエはエリートで凛々しい女性。そんな二人のキャラ分けもはっきりしていて魅力的だった。二人が捕まり、慰安所での凄惨な生活を送る姿は胸が締め付けられる。直接的な性暴力のシーンはないものの、見も心もボロボロになって落ちてゆくヨンエと、辛くても健気にヨンエを支えるチョンブンとに涙が溢れた。絶対に生きて帰るのだと、そう奮い立たせて前を向く二人。純粋無垢な可憐さと、生きる活力に溢れる熱さが強く印象に残る。圧巻の演技力で素晴らしかった。

おばあちゃんを演じたキム・ヨンオク、チョンブンの母を演じたチャン・ヨンナムの演技も光る。作品のテーマも演者の力量もどちらも圧倒的だ。ハードな内容とは相反した美しいカットの数々も印象的で、監督の芸術性を感じさせる。テーマはもちろんだが、純粋に映画の出来栄えとしても高評価が付く。学びの上でも観て欲しい作品だが、それを抜きにしても普通に良作な人間ドラマとしてお勧めしたい一本だ。


本作を観て、今の我々が胸に留めておくべきこと。それは、間違っても今の時代にこんなことを起こしてはならないということ。戦争はこんな残酷なことも引き起こすのだということを忘れてはならない。
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