むさじー

夜の浜辺でひとりのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

<男と女の愛を巡る幻想譚>

不倫スキャンダルで傷心を抱えた女優のヨンヒは、恋人である監督と離れる決意でドイツのハンブルクに来たが、韓国から会いに来ると言いながら来ないだろう彼を待つ気持ちは消えず、「望むのは私らしく生きること」と言いながら私らしさが分からない。外国で過ごす自由と孤独の中で自分を見つめていた。
会えないまま時は流れ、帰国したヨンヒは昔馴染みの仲間に会い親交を取り戻して、彼らの温かい励ましを受けて心は軽くなるのだが、彼女の心の片隅にはいつも監督がいて白昼夢となって現れる。
そして監督との愛憎入り混じる対峙が修羅場だ。私は“爆弾”と卑下しながらなじるヨンヒと、後悔を口にして泣き出す監督。後悔から抜け出したいが長く後悔すると甘く感じる、とは男の身勝手な言い分で、この身勝手さを堂々と言い張るところが、女々しくも深い愛なのだろうか。
多分この監督との邂逅シーンが夢なのだろう。フィクションと知りながらどうしてもプライベートな関係と重ねてしまうが、女に尽きない思慕を語らせ、男も別れられない思いを吐露する、裏にはホン・サンス監督の自己正当化の含みがあるのか、それとも愛を巡るもっと深遠なものがあるのか、その真意は分からない。
それにしても、バルコニーで窓ふきをし、時に佇み、奇妙に絡んでくる謎の男は何者か。観客には見えているのに登場人物には見えない男の存在が面白かった。終始見張っている世間の目か、ヨンヒを見守る監督の思いか、それとも付きまとう不安の象徴か、風変わり過ぎて解釈に窮する。映像作家の感性とかシュールの一言で片づけたくない気はする。
むさじー

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