海

夜の浜辺でひとりの海のレビュー・感想・評価

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)
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わたしは煙草を吸いません、ビールも飲みません、本気になった人の前で、本気になって泣いたことも怒ったことも笑ったことだって、ないの。もう取り返しのつかないほど、もう動けないほど、わたしの心のなかは、わたしだけの記憶のその影像でいっぱいだった。梅雨入り前の六月の夜風は涼しく、親しいひとの気配はたったそれだけでやわく、鼻唄、蛍の光、そこにひとが居なくても永遠に点滅し続ける信号。愛のなかにある気がしているとき、世界はあまりにも静かで、心臓の音まで聴こえてしまう。 先週、海を見て来た。あれからずっと、わたしの体の内は映写機みたいになり、目に映る全部が、生命の始まりで、終わりでした。だから黙って、とにかく黙ってて、2000ピースのパズルなんて無謀なことを始めて、あとは本を読んで、それから、眠っていた。夜中目がさめると、映画をもう観れないかもしれないと考えていた。さよならでもじゃあねでもまたねでも、何でもいい。別れのことば、ただそれだけ、聴かせるだけで、飛び立つことのできるわたしが、今のわたしのなかには、いったい幾ついるんでしょう。一人になれないから一人になってしまう、一人になってしまうから一人にはなれない、ここは海辺。劇場の最前列。ねえ。あなたが好きと言ってくれたわたしは、それ以外のことも、数え切れないほど知っているけど、一緒にくるんで、離さないでいてくれるの。百年後も夕焼けはありますか、海とかことばとか学問とかって、永遠も絶対もどこにもないから、その埋め合わせで在るものなんでしょうか。わたしの中にあることば、わたしの中にある知識、わたしの中にある海は、わたしが居るかぎり、永遠で、それを信じるあなたの中でなら、わたしは飛び立つことも、またとどまることも、できるようにおもえた。もう少しここで、波の音を聴いていたい。
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