お豆さん

歓びのトスカーナのお豆さんのレビュー・感想・評価

歓びのトスカーナ(2016年製作の映画)
3.5
「都会の生活に疲れた女2人、すべてを投げ打って憧れのトスカーナを旅して、若いイタリア男とワインと美味しい料理に舌鼓を打つうち、再び生きる力を取り戻す(この手のイタリア観は、もう飽き飽き!)」というプロットが思い浮かぶような邦題『歓びのトスカーナ』。しかし実際には「狂っちゃってトスカーナ」みたいなスペイン映画にありがちなタイトルの方が似合うかもしれない、そんな弾けた女たちのロードムービー(でもスペイン映画ほど狂ってない)。原題は“La pazza gioia”で、”pazza”とは形容詞で「狂気の」や名詞で「狂った女」という意味を持ち、英語の”crazy”のように「すごい、常軌を逸した」という意味合いで使われることも多い。つまり、この映画は「2人のイッちゃった女」が精神疾患を持つ人向けの療養施設から飛び出し、「イッちゃった」行動をして「クレイジーに」楽しみまくりながら、その狂気の奥底にある心の問題や悲しみ、深い願いに向き合っていく、そんな映画だ。いわゆる「奇人・変人」であることって、他人のことはどうでもよくって、時には楽しそうにも見えることがあるけど、本人はやっぱり辛いし努力したい気持ちがあるのにできない、というのがよく分かった。

『来る日も来る日も』や『人間の値打ち』の監督でもあるパオロ・ヴィルツィは、俳優の持ち味を引き出すのが抜群に上手い。この映画でも、主人公たちを演じたヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(金髪の方)とミカエラ・ラマツォッティ(ブルネットの方、そして実生活では監督の妻でもある)の弾けた演技は、見ている者を圧倒する。以前、『来る日も来る日も』のレビューの中で主演2人(ルカ・マリネッリとフェデリカ・ヴィクトリア・カイオッツォ)の演技について「この2人がいなかったら、この作品はもっと凡庸な映画になっていたのではないだろうか」と書いたのだが、同じことをここに書きそうになった。施設を飛び出してから、行き当たりばったりにクレイジーな問題行動を起こしていく様子など、本当に演技なのかと疑ってしまうほどだ(実際、程度の差こそあれ面倒な人は社会の中にいると思う)。自分では絶対にやらないようなクレイジーなこと(そもそも犯罪だったりするし…)を嬉々としてやっている2人の姿を見ていると、なんとも楽しそうでスカッとさせられた。

ただ、昨年のダヴィッド・ディ・ドナテッロ作品賞(他に監督賞、主演女優賞など全5部門)を受賞した割には、期待外れだったかな。
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