えいがのおと

アイスと雨音のえいがのおとのレビュー・感想・評価

アイスと雨音(2017年製作の映画)
4.4
タイムカプセル。いや、ほとんど時限爆弾だ。

午後23時、久しぶりに連絡をよこした友人からの飲みの誘い。
明日も仕事だから、またにしてくれと言いたいが、今この時じゃなきゃダメなんだと押し切られ、泣く泣く家を出る。
話を聞くと、なんとなく予想通り。
彼女に振られたらしい。
悲しみに暮れる友人にかけられる言葉など多くは持ち合わせておらず、深夜テンションも相まって、出てきた言葉はありきたり。

「時間が解決してくれる」

年を重ねて、経験も増え、妥協を学んだ私たちは、ある意味これが真理だということを知っている。
深夜、居酒屋で潰れるた友人もそんなことは分かっているのだけど、当事者には、そう簡単に受け入れがたい。
いや、受け入れてはいけないと思うのだろうか。

本作は、公演一週間前に中止を言い渡された6人の若者たちが、時間という現実に抗う74分だ。
その姿は、何かが「解決してくれたはず」の問題を、若き日の想い出としてか、見たくない現実としてか、観る人それぞれに想起させる。

作中でMOROHAが、当選しなかった学級委員への立候補について語る部分がある。
勇気を出して立候補したにも関わらず、嫌々出馬した人気者に破れる話だ。
MOROHAは、スクリーンを眺める私たちに、6人を観る視線と、落選した彼に向けられた視線に違いがあるかを訴えかける。

落選した彼を、好奇の目で見れてしまう人には、この映画は向いてないだろう。
しかし、そうでない人は、それが苦しい経験となることを覚悟して、松居大悟がボタンを押してしまった、あなた自身の時限爆弾に被爆すべきだ。


言うまでもなく、本作の1番のウリである74分ワンカット撮影は見事である。
また、松居監督らしい、若者の生きた会話、『私たちのハァハァ』を思わせる若さゆえの無茶は爽快だ。


誰もが持つ、時間が忘却させた、あの頃の「悔しさ」や「怒り」と言った感情。
それらを、成仏させるため、思い出して再熱させるため、その上で自分を受け入れるため、色んな人の「ため」の場になる作品が、本作『アイスと雨音』である。