ケーティー

ラブ×ドックのケーティーのレビュー・感想・評価

ラブ×ドック(2017年製作の映画)
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傑作・名作ではないが、要所要所のツボはおさえている映画


テレビドラマっぽいつくりだし、ポップな小道具やセットは漫画っぽい。しかし、名作映画を熟知している鈴木おさむさんが監督・脚本だけに、要所要所のツボは押さえているし、所々名作映画の影響を受けているシーンもある。

個人的には、いくつか好きな描写があった。パティシエなのに、いも嫌いの男にいものおいしさを教えたのは私、と女性に言わせる描写は、向田邦子さん的なものを感じる。特有のこだわりやエピソードをつくって心情を描写するあたりは、うまいし作品の味になっている。また、怒って殴ろうとするがパンチを受け止められてしまう切なさ、突然の告白に動揺して思わず脚をぶつけてしまい痛がりながらも大丈夫大丈夫と話させる描写など、随所に女性の切なさとおかしさを同時にうまく表現していていい。

こうした映像的な描写の面白さに加えて、放送作家ならではだなと感じたのは、不倫する男のカッコ悪さを列挙するシーン。ここは、これでもかとあるあるネタを畳み掛けるように出してきて面白い。

このように、面白い描写もあるし、全体のキャスティングもよいのだが、作品をオムニバス的な形式にしてしまったことで、全体の盛り上がりが弱くなってしまった感があることも事実だ。連ドラならこれでいいのだが、映画でオムニバス的に構成して全体を絡めつつラスト盛り上げるのはやはり難しいのだなと思った。本作のようにオムニバス的に色んな人との恋を描きつつ、ラストに一つのゴールに向かって結実していく作品としては、「恋人たちの予感」という名作がある。しかし、本作と「恋人たちの予感」の決定的な違いはゴールのあり方だ。本作のゴールは、恋愛ドラマとしてはハートウォーミングだけど、意外な終わり方で終わる。この終わり方だと、「恋人たちの予感」のように、ずっと同じ人物を出して、恋人は変わっても同じ友人との会話が入るというつくりができないので、全体を通す一本の幹を作れないという難点があり、そこが映画の弱さにつながっている気がした。

しかし、ラストでのパティシエならではの解決方法はいいし、40歳にして幸せとは何かに気づく主人公のラストの描写は素敵だった。