雪山を自由に駆けまわる二頭の鹿、食肉工場で人間に屠殺される無数の牛、その食肉工場で出会って恋に落ちる二人の人。
海外の映画を観るのは、異国情緒に触れたいから。この映画は、異国情緒だけでなく、動物との対比も交えて、人間の心象風景が丁寧に描かれていて、観賞後、ほのかな余韻が残った。
野生の動物が持つ鋭敏な感受性を、人が人間社会で持つことは、マーリアのように周囲の人との間にコミュニケーションの障害を生み、当人は生きづらさを感じてしまう。障害の程度が大きいと、精神疾患という病気のレッテルを貼られる。
マーリアと同じような感受性を持つエンドレは、それを封印(抑圧)して生きてた。マーリアと出会い、抑圧されていた感受性が解放される。夢の中で鹿になった二人は言葉(論理)を介在しない感性のコミュニケーションをとり、そこには何の障害も生じない。
セリフの少ない映画が好きだ。解釈の幅を視聴者に委ねてくれるから。セリフの余白を、映像からインスピレートされた言葉が埋めようとする(=解釈)。そういった意味で、観賞後に、いろんな言葉が湧き上がる映画。◎