糸くず

心と体との糸くずのレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
4.5
不器用で傷つきやすい大人たちのための丁寧で優しいラブストーリー。

人には、心と体がある。しかし、実際の人間関係において、人は相手の心と体をきちんと見ているわけではない。行動だけで、言葉だけで、目の前の人の思いを判断してしまうことはたくさんある。

食肉処理場での事件について調査しに来た精神科医の女性は、従業員への面接を録音し、彼・彼女らの言葉を吟味し、心理を分析する。しかし、彼女は豊満な肉体の持ち主であるがゆえに、体ばかりを見られてしまう人でもある。では、彼女が人の心をちゃんと見ているかというと、そう一概には言えない。分析に邪魔な情報、たとえば「同じ鹿の夢を見た従業員が二人いる」という出来事に対しては、いたずらを疑って不快感を示すのだ。彼女の目的は事件の犯人を見つけ出すことであって、一人一人の心としっかり向き合うこととは少し違う。

このような心と体の微妙で複雑な関係をできるかぎり丁寧に心を込めて描き出そうとしているのが、この映画なのだ。

床に落ちたハムを拾う、テーブルのパン屑を集める、食べなかった夕食にラップをかける。どれも普段は見過ごしてしまう小さな動作である。しかし、こうした日常のささいな動作に、その人の心が見えることがある。その瞬間を、この映画はとても大事に扱っている。

「犯人」との握手、食料品店のおじさんの笑顔、黒豹のぬいぐるみが撫でていく肌。どの瞬間も美しく、忘れ難い。

年末にこんなにも温かな映画に出会えて、本当によかった。そういえば、観ている間に、マウゴジャタ・シュモフスカの『君はひとりじゃない』を思い出していたのだが、あの映画の英題は“Body”だった。

〈シネマ・カーテンコール2018〉
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