海

心と体との海のレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
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心臓は一つしかない。唇は一つしかない。瞳は二つもある。でも見つめられるのはたった一つだけ。湿った肌に触れる夜風。火照った頬に揺れる灯り。閉じたまぶたの上で、夢の中のあなたの声と、窓の向こうの電車の音が、まざりあう。忘れようとか、あきらめるとか、さようならとか、何度そうやって手を振っても、振った回数だけ背中を気にして、動けなくなるだけなのに。子犬くらいだったこの気持ちが、いつのまにか、大型犬くらいの、ワルツに育ってしまっていて、でも現実では、踊りだすことも笑いだすこともできないまま、ゆるされはしないわたしたちと、計りきれないあいしたいを、胸の中でふくらませてる。

わたしもマーリアと同じように、夢の中で大きな獣に会ったことがある。一つ違うのは、わたしはわたしの姿のままだったこと。それから少しして、一度も話したことすらなかったひとと、偶然にぶつかって、そのとき、夢の中の獣が、そのひとだったことに気がついた。彼はわたしを見て、ゆっくりと目を見開いた。同じ夢を見ていたのかは分からないし、きっとそれはありえない。でもわたしはその瞬間に、今まで気にもとめていなかったそのひとのことを、無意識にすごく近い意識の一番奥で、いつもさがしていたことに、気がついた。すごく不思議な体験だった。わたしはそのときはじめて付き合ったひとと別れたばかりで、その原因になった一つが、わたしがスキンシップを嫌ったからだった。でも、わたしは夢の中の彼とぶつかったときから、すごくすごく、もうずっと、彼に触れてみたくて仕方がなかった。叶うことはきっとないだろう、それなのにわたしはあの時に感じていた温もりと、安心を、いまだに手放せないままで、生きてしまっている。
夢というのは不思議なもので、それは時に見えている現実より真実を語ったり、自分じゃ絶対にできないほど上手く嘘をついたり、わたしとあなたをきつく結んだり、その結び目の羽を広げて、とほうもないほどの長い時間を、連れていってしまうこともある。

孤独で編んだ夢がわたしたちを食べる。不安や痛みでさえも、朝がくるのと同時に幸福に変わる。ここにある、心と体と。それが、夢のようにすばらしいから、うれしくて、目がとじるくらいいっぱいに、笑ってしまうの。
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