TAK44マグナム

スキン~あなたに触らせて~のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

3.6
これ以上なく哀しいハッピーバースデー。


アレックス・デ・ラ・イグレシア&カロリーナ・バング夫妻が製作を務めたスペイン産の、かなりとんでもないビジュアルショックが得られる風刺映画。

登場人物は、みんな風変わりで異質なルックスや性質を持つキャラクターばかり。
みんなの関係が微妙に交錯する群像劇スタイルをとっております。


顔の半分が崩れた女性。
その彼氏は事故か何かで、やはり顔を失っており、更にもう一人の彼氏は健常者(こういう表現は間違っているかも・・・)だけどもルックスが奇形でないと愛せない性癖。

目が見えない・・・というより目そのものが無い娼婦(ウルトラマンに出てきた地底人みたいな特殊メイクです)。
そして、その娼婦のところへ通うファッティなヘヴィ級女性。

とある理由から人魚に憧れ、自分の脚を不要だと思いこむ息子と、そんな息子に嫌気がさしている母親。

人気子供向け番組「ピンクー」の主役である軟骨無形成症の女性は、体外受精によって妊娠、番組を降板したいと考えている。

口が肛門で、肛門が口の女性。
登場人物の中で一番インパクトがあり、一番哀しいかもしれない。
星新一の作品で、宇宙のある星で探検隊が大歓迎を受けて、熱烈なキスをしたりしていたら、実はその星の住人は肛門で食事をしていた。では、口は・・・?!
という、大変愉快なショートショートがありましたが、真っ先に思い出しましたよ。
ただし、本作の口が肛門女性はご丁寧に顎がお尻の形で、口のまわりにはケツ毛まで生えているという顔下半分がリアルに尻という設定で、食事はスープ(親父のつくる紫色のスープが不味そう)を唇型のケツから飲むのです。
非常に不憫で不便。
最大の問題は鼻の下がすぐ肛門なので多分臭うだろうし、大体、ウンコする時どうしているんだ・・・(汗)


そんな登場人物たちの喜怒哀楽が、パッパッとテンポの良い編集で紡がれてゆきます。
映像を彩る音楽やカメラの構図、そして間のとり方など、時には鋭く、時にはとぼけた風で一見の価値あり。

始まるとすぐに、かなり強烈なビジュアルに目玉が飛び出そうになるぐらいの衝撃的ヌードがドーン!と観るものをビビらせます。
あまりの圧倒的破壊力に度肝どころか魂も抜かれそうになってしまうので用心してください!
しかも、このヌードが、その後まったくといっていいほど話に絡まない!ものすごく意味深なのに、意味があるんだかないんだか解らないままなのです。
エジプト文明は・・・などと博識な台詞が飛び出しても、一体なんのことやら?
もしかしたら、このヌードを偏見のこもった目で見てはいけない、至って普通のヌードなんだよって言いたいのかも知れませんが、このババア自体がどう見ても普通じゃねえ(苦笑)!
漫☆画太郎じゃないんだから!

・・・それはそうと、この冒頭のシーンにも出てくる「人魚になりたい息子の父親」ですが、結局この人は何の病気だったんでしょうねえ?
このオッサンが本作の一番の謎です。
なんで目の見えない娼婦にダイヤあげたの?

一見、ピンクとパープルに統一された世界観がポップですけれど、金や欲、偏見にまみれたダーティな社会がそこに広がっており、時には容赦のない暴力が襲い来ることもあります。
しかし、紆余曲折を経た物語は、登場人物たちに希望を与えて幕を引きます。
意外なほどのハッピーエンドと言っていいでしょう。
ぱっと見、薄味の悪趣味をまぶした中途半端なフリークス映画にみえるかもしれませんが、実は根底に流れるのはもっとブラックなメッセージなのではないでしょうか。
監督が目指したものは、鑑賞しているうちに異質なルックスの彼らが普通だと思えるようになる映画らしいのですが、確かに愛や尊厳に生きる意味を見出す彼らの姿は人間ならごく自然で当たり前のものに見えます。
けれども、これまた強烈なラストカット(劇場公開なら映倫がモザイクいれる可能性ありでしょう、これ)を目の当たりにすると、「そりゃそういうプレイもあるけどさ」などと、普通の◯◯が◯◯◯◯めになってしまうという、まるで普通じゃない濃厚すぎる締め方にもんどりうって終了してしまうのでした。
結局、ちっとも普通には思えなかったわけで・・・(汗)

一人で生きることを選んだり、「普通じゃない部分」だけを愛されて生きるなんて、救いがあるように見えて本当は望んだ人生じゃないんじゃないのかな。
そんな風に、斜に構えて観てはいけないのかもしれないけれど。
重要なのは、本作に出てくる健常者の殆どは、結局のところ何も理解していないというところでしょう。
肛門女性の父親も、奇形しか愛せないダメ男も、誰も彼も相手が分かって欲しいと思っている事に気付こうともしないで終わるのですから。

目が見えないと相手を触って確かめたいというのは何となく理解できましたね。
お互いを知るには、スキンシップが大切。
あのカップルだけはホッと出来るハッピーエンドでした。
だって、触れば相手の体型ぐらい分かるもんね。
食堂のオバちゃんだって気兼ねしないですむだろうし、理想の二人と言えば理想でしょう。

最後に、いわゆる欲情的なシーンは少なめながらも、オッパイやチンコはバッチリと映ります。
特に、モザイク無しのチンコブラブラ〜ンに嫌悪感を感じる方はご注意くださいね。



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