horahuki

兄が教えてくれた歌のhorahukiのレビュー・感想・評価

兄が教えてくれた歌(2015年製作の映画)
4.0
私たちは「暗闇」の中に立っている…

『エターナルズ』のクロエジャオ監督長編デビュー作。他作と同様、広大で綺麗な自然風景の中で「これから」に思い悩む人たちの心情を観察し続ける美しい映画。高校卒業を前に進路に悩む兄と、大好きな兄の旅立ちを控えて強引に大人へのステップを歩もうとする妹の繊細なドラマにグッときた…😭

本当は『エターナルズ』の感想をウッキウキで投稿しようとしてたのだけど、期待してた某キャラの顛末等々で何かイマイチテンション上がりきらなかったので代わりにこちらを…😅『ザ・ライダー』『ノマドランド』も合わなかったので、本作も正直それほど期待してなかったのだけど、めちゃくちゃ良くてビックリした!!私的には本作がクロエジャオ監督のベスト!

自然風景と時間帯による空の見え方にキャラクターの心情を語らせるのは監督がずっと一貫して採り入れている手法。『エターナルズ』では3、4回登場する夕日にその都度キャラ同士の心的な繋がりを象徴させ、更には起点に「火」を配置していたけれど、本作で既にそれは確立しており、両作とも喪失とそれが与える残された者への心的影響に「火」が重ねられていた。

『ザ・ライダー』『ノマドランド』で陥っていた一義的で固定化されたシークエンスの数珠繋ぎが本作では見られず、複合的で広がりを見せる感情を観客側に固定化させずに「あるがまま」として秘した状態で伝えることを徹底しているのが凄く良い。これは題材に依るところが大きいのだけど、「終わり」を選択肢の中に入れずに、単一ではなく複数の主要キャラの関係性の中で内面を描く方がこの監督は上手いのでは?と思った。

他作全てに共通するのだけど、テーマとしての社会性に真正面からメスを入れるような上から目線の批評・批判はせずに背景事情に落とし込み、窮屈で複雑な形状をした真っ暗闇な「箱の中」で生きる選択に至るまでのパーソナルな心情変遷と、その先に薄らとだけど確かに差す「関係性としての光」の普遍性と温かさがこの監督らしさなのでしょうね。そしてその「選択」に確固たる意志を乗っけるまでを観察するからこそグッと来る。

『ノマドランド』はそのあたりやり過ぎた気がする。あれほとんどキアロスタミの『桜桃の味』だもんね…😅でもこの監督の映画は綺麗過ぎるのと、借り物感が強いのが個人的に「めっちゃ好き!」まで行かない理由かな…。完全に好みの問題だけど、もっと「生きる」に至る人間の内面って自分じゃ制御できないほどにグチャグチャでグロテスクなものだと思うし、だから『Lamb』とか『Starfish』とか『She Dies Tommorrow』が個人的にハマるんだと思う。
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