TaiRa

兄が教えてくれた歌のTaiRaのレビュー・感想・評価

兄が教えてくれた歌(2015年製作の映画)
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クロエ・ジャオのサウスダコタ三部作の初まり。やはりデビュー作観ると作家性がよく分かる

サウスダコタ州のパインリッジ・インディアン居留地に住むラコタ族の兄妹に、ほぼ本人役を演じさせる方式。国内ですら知られる事の少ないネイティブ・アメリカンの現状をドキュドラマとして見せる。この作品を前提にした方が次作『ザ・ライダー』は理解が深まる(主人公の背景が分かるので)。この作品でも描かれるが、居留地の現状はかなり厳しく、失業率も高ければ10代の自殺率も全国平均を上回る。アメリカの見向きもされないどん底が確かにある。主人公の青年は進学を期にL.A.へ出て行く彼女に付いて行こうと考える。ただ、生活能力がない母親の元へ妹を残して行くのか、そこに葛藤が生まれる話。クロエ・ジャオは、ずっと「故郷」についての作品を作ってる。これは『エターナルズ』も含め。そこには必ず究極の選択が提示され、主人公は生き方を模索する。その基本構造が今作で確率しているので、クロエ・ジャオ作品を観る上では、やはり今作は大きい。ちなみに作品を重ねる毎にテーマは複雑化しているとも思う。今作を観てて10代の子たちの未来のなさ、というか可能性の狭まり方は凄いなと。進路を聞かれた青年たちがブルライダーくらいしか成れるものがないと思ってるのも。この場所を離れない限り希望は持てないのが現実という。クロエ・ジャオ作品の何とも言えない結末は徹底している。何かを選択してもそれが何の解決にはならない感じ。ただ、いつも個人の心は少しだけ前に進む。
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