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しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイスのNMのレビュー・感想・評価

3.5
モードの母が亡くなって以降兄夫婦が面倒を見ていたようだが、お荷物扱いだったようだ。
モードが何もできないというよりは、何もかもを否定され、何もできなくされていたように見える。
兄は相続した生家を勝手に売ってしまった。
ついに嫌気がさし、住み込み家政婦に応募、家を出ていくモード。おばは一家の恥になるからと止めるが、決意は固い。

小さく素朴な家に住む魚売りの男エベレット。一日中働くうえ何やら慈善活動もしており忙しいらしく、貧しいが家事手伝いが必要。
ぶっきらぼうで、すぐ声を荒げる性格。
モードは不器用で仕事をした経験などもなく、最初のうちはイライラされっぱなし。エベレットは親切に仕事を教えるような男ではない。
怒鳴られたり殴られたりしてモードは泣いて怒るが、しばらくすると彼を許しまた仕事を始める。
確かにモードは手がかかるかも知れないが、こんなエベレットに耐えられるのはモードぐらいでは。

モードはペンキを見つけ、壁に小さな花を描いた。エベレットは特に咎めなかった。
徐々に壁に絵が増えていった。
ある近所の女性が絵をとても褒めてくれた。カードに描いて売るようになり、依頼を受けて大型の作品も描き始めた。

この家にベッドは一つしかなく、二人は毎日一緒に寝る。
物理的に距離が近いことは二人が徐々に仲良くなっていくきっかけだったかもしれない。
まるで家族のように、そして夫婦のようになっていき、自然に結婚した二人。

変わらず地道に働くエベレット。
ますます有名になっていくモード。
毎日のように取材が来る。エベレットは人付き合いが得意でないことは明らか。とても居心地が悪い。
妻が有名であることであることないこと噂されるのもエベレットにはとても不快。
今もこれまでも働き詰めなのに、まるでそれを否定されている気分。
モードも依頼をこなすのに必死で家の世話まで手が回らない。結局エベレットがすることになる。
一度は別れを決意する二人。しかし彼らの絆は深く、お互いに代わるパートナーなどいるはずがない。一人の生活になど戻れない。

年を経てモードの病気は徐々に悪化。エベレットが一人家にいるとモードの絵に囲まれていてあたたかくも切ない。

モード役サリーの演技が良い。本作の柱。しっかり意思はありながらも従順で優しい人柄を演じている。
実在の画家がもとだがどこまで事実に基づいているのかは不明。詳細な証言や日記が残っているわけではなさそう。多くは創作だと思うが少なくとも映画としては素敵な話になっている。実際はエベレットの方がちゃんと妻を愛し献身的に支えたという形だろうか。
作品内の描写においても、男女や夫婦のあり方というのはきっとこの時代この場所では普通というかむしろ良いほうだったのではないだろうか。当然のように夫のほうが強くて、当然のように妻は従う。しかしエベレットは病気を差別せず結婚した。
仕事の上限関係はもっと厳しいので、初期の二人はもっと主従関係がはっきりしている。男女としての関係になるっていくとともにそれが緩和されていく。

雑貨屋の主人の「こんなの俺でも描ける」という台詞。芸術や芸能活動というのはそれが分からない人や響かない人好みじゃない人にとってはまさにこれ。
特に、人気らしいけど自分には良さが分からない、という状態は本人にとってなぜか肩が狭く、つい攻撃したくなるのだろう。わからないことは罪でもないし誰も責める権利はないのだから、わからないことをただ受け入れて黙っていれば良いだけ。
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