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デトロイトのnetfilmsのレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.2
 1967年7月23日デトロイト、交差点の向かいのビルディングでは、密かに黒人たちが集い始めていた。ドアを開けた瞬間、中から漏れるブラック・ミュージック。建物の2階では、ヴェトナムからの帰還兵のグリーン(アンソニー・マッキー)の復員パーティが開かれていた。思い思いに着飾り、笑顔を見せる黒人たちだったが、その平和な瞬間を白人警官たちが包囲する。無許可で販売されていたアルコール類を取り締まるべく、2階にあった現場を正面のドアと裏側から包囲した白人警官たちの様子は一見手際良く見えたものの、実際は黒人たちを交差点まで追い出すのに思いの外時間がかかり、異常な物音を感知した関係のない黒人たちを集めることになった。かくして度を越した黒人たちへの取り締まりに一般人までが怒り、投石を繰り返した。この一夜の事件を発端にして、市内の秩序が5日間に渡り混乱する異常事態が起きた。事件では最終的に43人が死に、負傷者が1100人以上、そして逮捕者は7000人以上にも及んだ。映画は途中まで中心となる主人公を誰に規定しているのかを明らかにしない。だが白人警官のクラウス(ウィル・ポールター)が幼い風貌にも関わらず、黒人を撃ち殺す姿が一際異様に映るはずだ。彼は西部劇で禁忌とされているような、無防備な黒人の背中を至近距離から撃ち抜いてしまう。

 『ハート・ロッカー』が任務終了までの38日間の物語だったように、今作も当初はデトロイトで起こった5日間の暴動を順を追って撮っているかに見えるのだが、中盤、バージニア・パークのすぐそばにあるアルジェ・モーテルに、ドラマティックスのリード・シンガーであるラリー(アルジー・スミス)が泊まったあたりから、時間の経過は徐々に鈍重になっていく。フォックス劇場でのステージに期待を膨らませていたラリーら一行は、命を懸けて臨んだステージの直前で暴動の余波に巻き込まれる。スポットライトを浴びたステージの上、無念そうな表情を浮かべながら、ただ一人熱唱するラリーの背中が観ていて辛い。だがそれから数時間後、彼はもっと厳しい背中をスクリーンの外へと曝け出す他ない。『ニア・ダーク/月夜の出来事』から一貫して夜の闇の静けさと美しさに尋常ならざる思いを向けるキャスリン・ビグローの手腕は、街の喧騒から離れて静かになったアルジェ・モーテルを狂乱の現場に変える。陸上競技用のスタート・ピストルの発射を誤まって、拳銃での発砲と誤認した3人の白人警官たちの内面に、有色人種への差別意識があったことは否めない。しかもクラウスやフリン(ベン・オトゥール)を激昂させたのは、白人の若い少女たちがあろうことか黒人と同じモーテルの部屋にいたという事実である。銃の在処を探す男たちの手に握られた銃の矛盾する優越感、そしてモータウンを生んだ街デトロイトの白人たちの特殊な黒人への劣等感。今作の悲劇を経て、1968年4月のキング牧師暗殺は起きただろうし、残念ながら「ブラック・ライブス・マター」運動の機運が高まる現代とも皮肉にも地続きで、問題は依然として燻り続ける。
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