くりふ

ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密のくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【ポリグラフとポリアモリー】

邦題は原題『Professor Marston & the Wonder Women』と逆だが、これだと誤解を招きますね。何故か、のわけも含めて以下書きます。得るものは多かったので長めです。

ワンダーウーマン原作者の特異な半生を、事実を元に…かなり加工しているようだが…描く劇場未公開作。日本では結局、DVDスルーなのね、みれば確かに売りづらいな、とは思ったけれど。

題材はすごく面白く豊かさ詰まっているが、そこから映画としての切り出し方は割と単純、表層的な仕上がり。“特異”をかみ砕かず、作り手側の納得感でまとめた印象。だから劇場未公開?

が、観客が意志的に読み込めば発見は多いから、映画化した価値はあると思う。

まずは1920年代終わりのハーバード大から、ポリアモリー(複数同時OK愛)を貫こうとした一組の夫婦と独りの女、の物語でした。

マーストン教授の妻エリザベス役、レベッカ・ホールがいい。巧い。実質、彼女が主人公でしょう。女性監督の視点・立ち位置は彼女に近いかと。頭がよく男社会で窒息気味。が、頭がいいゆえリスクにも敏感、願望を行動に移せない。だからイライラ。

マーストン教授役ルーク・エヴァンスは微妙だった。実写版“美女やじゅ”でガストンを演じていたが、マチズモの方が嵌る人だ。

本作、近似作として『危険なメソッド』を思い出したが、この役にはもっと、あのユング役、マイケル・ファズベンダーのような繊細さが欲しい。逆に、男の鈍感力が滲む場面は面白い。女性監督らしい一刺し。

タイトル・ロールの割に印象弱いが、それが最後“舞台を譲る”場面にはすんなりとつながる。

夫妻の間に入る、可愛らしきファム・ファタール、オリーヴ役ベラ・ヒースコートはこんなもんか、とは思ったが、心模様グラデーションの幅がない。そこが豊かならもっといい役になったと思う。

教壇という舞台、人に見せられる舞台、見せられない舞台…物語進行に伴い、三人が様々な舞台の上下で何処にいるのか?でパワーバランスを表していた。

一方、横並びの目線で視線を移し合う愛のトライアングル、その優しさとスリル。こういうところは映画らしくていいね。

マーストンはポリグラフの発明者でもあって、その過程も駆け足だが興味深い。ポリグラフという装置を使わないと愛を確認できない逆説、も表現としては単純だが、成程と感心した。

が、肝心の、ワンダーウーマン誕生物語としては蛇足感あり。WWが出てこなくとも、特異なポリアモリー物語として成立している。

また、これだと誕生時の原作を知らないとピンと来ない。“服従タイプ”のWWビジュアルが強烈に刻まれてしまい、ガル・ガドット版WWにはどうあがいても繋がらないww もう少し後の時代にアイコンとなる、縛り縛られベティ・ペイジの先駆的存在だったのだろうか。

ラストは、ポリアモリーから女性に絞る物語へと“昇華”していた。ああ、監督はむしろコッチを言いたかったのだろうなと。エリザベスを説得的に描いてきた成果が結びとなる、ちょいと心揺さぶられるエンディングでした。

近年になって刊行された伝記本(WWの伝記でもある)を、かなり参考にはしているのでしょう。邦訳出たらぜひ読みたいですね。

より、彼女らの実像を知りたくなりました。

<2018.3.31記>
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