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ホンモノの気持ちの海のレビュー・感想・評価

ホンモノの気持ち(2018年製作の映画)
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時々思う。わたしの中に生まれる気持ちは、今まで観てきた映画や、読んできた小説や、聞いてきた話の真似事をしているだけで、本当に新しく生まれた感情なんか、どこにもないんじゃないか。その疑いさえも、どこかで教わったものなんじゃないか。誰もがそうやって生きていて、本物のことなんてこの世には一つもないんじゃないか。幸福を感じるたび、振り向く。疑いが事実になるのが怖くて目をつぶる。ゾーイ、彼女の中にある淋しさはわたしの知るどんな淋しさよりも孤独だった。彼女の中に生まれゆく気持ちはわたしが知るそれと同じように、特別に美しく輝いて見えた。彼女の中にある愛は、わたしが今まで見て来たどの愛とも違う色で、燃えていた。偽物のわたしの、本物の気持ち。本物のあなたの、本当の気持ち。ゆっくりと指をからませて、ステップを踏む、わたしたち。透明の硝子の向こう側で、弾けて、縮んで、広がって、泳いでいくこの想いは、作り物なんかじゃない。人間のように、プログラムのように、この世界に何度でも朝が巡り来るのと同じように、夜が明ければ君は目を覚ますだろう。おはようと言って、祝福のキスをくれるだろう。明日のあなたのことを、明日のわたしが愛する、そんな当たり前のことにあなたが涙を流してくれて、ようやくわたしは、この想いが本物の愛だったことに、気づくの。

いろんな形の"SFとラブストーリー"を見てきて、そのどれもがわたしには特別にいとしい。まだ猫と暮らし始めて間もない頃、はちわれの小さな額に指先でハートマークを描いて、「これは人間の世界では、愛してるを伝えるマークなんだよ」と教えたことを、こういう映画を観るといつも思い出す。
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