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ワレワレハワラワレタイ ウケたら、うれしい。それだけや。のSEULLECINEMAのレビュー・感想・評価

4.5
木村祐一がインタビュアーとなって100組の芸人へインタビューをする、という映画。師匠方の話と若手芸人の話を対比させればさせるほど、NSCと現代の劇場システムの功罪に自然と目が向いてゆく。
特に西川きよし、月亭八方、間寛平、今いくよくるよの話がとてもおもしろかった。「お上方」であることの誇りと、松竹芸能に対する嫉妬と憧れのこもった眼差し、そして「芸事」の世界に入ることの歓びと覚悟…平三平や海原お浜・小浜、博多淡海といった伝説の芸人の名前がポンポンと飛び出すなか、やはりそこにはどこか"Things have changed ”的な寂しさと哀愁を感じる。
1900年代に自然発生的に作られ、連綿と受け継がれてきた「芸事の世界」の文化や因習を徹底的なまでに壊すことを目指したのは「親なき子」ダウンタウンだった。彼らのアナーキズムな姿勢は、現会長である大崎洋の社内での権力闘争とも、もちろん深く関わっている。
「お笑いの歴史はダウンタウン以前以後に分かれる」という言葉は、その笑いのセンスではなく、ダウンタウンと大崎洋という3人のアナーキストが徹底的に吉本を壊し、「芸事の世界」を完全に別のものに作り変えてしまったという構造的、システム的な変革の成果にこそ使われるべきであろう。そしてその変革を正当化したのが松本人志のもつ天才な笑いのセンスだったことは、やはり歴史に特筆すべきである。
しかし若手芸人の話を聞くと、彼らの革命の先に広がる地平が、果たして本質として持続し続けるものであるかどうかにはやはり疑問が残る。
そのような視座に立って笑福亭松之助と明石家さんまのインタビューを聞くと、さんまがなぜあれほどまでにダウンタウンを嫌うのかがよく理解できる。
そして何より、笑福亭仁鶴の話は一言一言が鉛のように重い。特に最後の「会社にとってこんなにいい芸人はいない」というくだりは芸人としての矜持と哀愁を感じて、泣ける。この芸人がもうこの世にいないことが、芸能界にとってどれほどの喪失だろうか。
「下手も上手もなかりけり、行く先々の水に合わねば」
吉本興業が創立100周年を記念して作ったこの映画には、革命以後の吉本に対する省察と、革命以前の吉本に対するノスタルジーがこめられている。「お笑い」や「芸事」を愛する人なら、必ず観ておくべき1本だと思う。
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