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ポリーナ、私を踊るのumisodachiのレビュー・感想・評価

ポリーナ、私を踊る(2016年製作の映画)
3.4
『ポリーナ、私を踊る』鑑賞。バレエ好きにはたまらない内容。有吉京子の『SWAN』や、山岸涼子の『アラベスク』が好きな人にオススメ。(特に前者は恋愛と共にコンテに目覚めつつ挫折するところとか、内容的にも被ってる気がする。)

ロシアのバレエ学校でクラシックバレエの特訓を受け、将来を嘱望されているポリーナ。ボリショイバレエ団のオーディションにも合格し、順調に進んでいたものの、コンテンポラリーダンスとの出会いに衝撃を受け、フランス人ダンサーの恋人と共に南フランスへ渡ることを決意する。

貧しい家庭環境に悩まされながらも、ストイックに踊りに邁進するポリーナ。馬車馬のように視野が狭く、極端な完璧主義。演じるのは、本作が映画初出演となるアナスティア・シェフツォワ。身体におさまりきらないダンスへの情熱を秘めつつも、感情がうまく表に出てこないという独特の雰囲気が見事だった。

南フランスの振付家リリアを演じるのは、あのジュリエット・ビノシュ。ポリーナとは対照的に、踊る喜びを迸らせるかのようなダンス。踊りのキレ以前に、あの表情はなかなかできるものではないだろう。

南フランスで挫折を味わったポリーナは、ベルギーへ移動する。なかなか雇ってくれるバレエ団は見つからず、成り行きでナイトクラブの職を見つける。ロシアの家族にはダンサーとして成功していると嘘をつき、次第にダンスへの情熱も忘れかけていたポリーナだったが、ジェレミー・ベランガール演じるカールの即興性を重視するダンスに心惹かれ、同居することに。カールは、ポリーナに振付に挑戦しないかと勧めるのだが……。

パリオペ時代からジェレミー・ベランガールを知っている者にとっては、街の片隅のダンス教室で、先生としてガッツリ芝居しているジェレミーが新鮮。そして、なんといっても本作の真骨頂はジェレミーとの特訓シーン以降だった。

偏狭で熱意だけが先走っていたポリーナは、ベルギーの市井の人々に目を向けるようになる。そして、一旦は打ち砕いた自分の中のダンスへのこだわりをひとつひとつ拾い上げるように、カールとダンスを作っていく。最後、ポリーナは集大成となる作品を披露することになるわけだが、ロシアでの自分、その後の自分をしっかりと受け止め、苦手だった【感情を込めた】舞踏を見せる。文句なしに最高。

なお、作中の振付はプレルジョガージュが手がけている。南フランスとベルギーでもう少し差をつけても良かったのでは?とも思うが(ちなみに、動き自体は南フランスの方がユニークだった)、【感情を込める】【自分自身を表現する】という命題に対しは満点の振付だったのではないだろうが。

誰が観ても楽しめる作品だとは思うが、やはりバレエ好きの人にこそオススメ。ちなみに、コンテンポラリーで私が特に好きなのはマッツ・エック振付『アパルトマン』のパ・ド・ドゥみたいなやつ。ギョッとするような表現も込みで直感的に刺さりつつも、衣裳や音楽も含めて洗練されている作品が好み。

あとは、人生の道筋ってひとつじゃないよね。回り道しているように見えても、何かにたどり着くかもしれないよ?と背中を押してくれる映画でもある。良作でした。
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