曇天

シェイプ・オブ・ウォーターの曇天のレビュー・感想・評価

4.0
「あなたには分からない、私がどれだけ愛しているか」
これはマイノリティではないこちら側に向けられた言葉であるようにも聞こえた。ストレートな感情を表に出すシンプルなお話だが、普段それができず隠して生活している人が観たら胸を打つのかもしれない。

キャスティング・テーマ・美術設計、何から何まで異形好きデルトロ監督らしい一本。今回は脚本も楽しめたので今までで一番好きかもしれない。メインどころの美人女優と比べると一段落ちる顔面のサリー・ホーキンス、『ヘルボーイ』のエイブでもお馴染みダグ・ジョーンズ。顔が美しくない代わりに肉体が性的扇情的、冒頭から無闇に裸体を見せつけてくるので妙にドキドキさせられたし驚いた。半魚人の方もやたら筋肉質で男性性を強調してくる。やっぱり「普段見せずに隠しているものこそ美しい」というのはマイノリティの生き方自体を肯定するメタファーに思える。好きな人を愛したいという、抑えていた感情(性欲)を爆発させるシーンは微笑ましい。

何かと快挙な映画だが、一番印象的だったテーマは冒頭の語りでも示された、美男美女が主役だった古典的なおとぎ話からの脱却とか反抗。ラストでは「とあるおとぎ話」をかなり意識したかなりのアンチテーゼを提示していたので、気づいた時は「よくやった!」とガッツポーズ。あのおとぎ話とは全く逆の展開を見せることで、万人に受け入れられる美しい者達主体の物語の時代の終わりを感じた。そして、人間の大人としての恋愛「性愛」を肯定する描写の数々、そのための年齢制限。理性的、合理的なプロデュースで今のアメリカらしいなぁとも思う。去年の『ムーンライト』からの『シェイプ・オブ・ウォーター』、アカデミー賞はそのへん凄い意識してると思うなぁ。

卵のボイル、朝風呂シーン、雨など水に関連するモチーフの連なりが心地良い。緑色が多いけど青、オレンジ、黄色と時代感あるカラフルなライティングが温かい。個人的にロシア絡みのパートが一番ハラハラ。全体では脱出パートまでがドキドキした分、その後の展開が落ち着いてしまったのでそこまで大絶賛ってテンションではないのかも。マイケル・シャノン演じるストリックランドは悪役だが、当時の凝り固まったマッチョイズムに思考がとらわれており哀しくて憎めない。
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