スタートからさっそく心をつかまれた。段々盛り上がるのではなく最初からアクセルを踏み込む展開。
なるほどこのインパクトの強すぎるポスターはこういうわけだったのか。思ったよりちゃんとしてた。歌唱の発声で卵が入っているように口を開けると聞いたことはあるので、ピンポン球派もいてもおかしくない。いきなり口に突っ込みはしないだろうが。早々に解決して本題へと進む。
ジョンはてっきり変なガイジンかと思いきやとても良い人で意外だった。セツコが彼に何か嫌な目に遭わせられるのかと思ったらただの親切な人だった。変な人はセツコの方か。
出会いも楽しみもなかったセツコがこの優しい彼を好きになっても何らおかしくない。
あの時一人街にカツラで置き去りにされミカとともに走り去ったのを見た時、二度目だ、と感じたのだろうか。
何かがぷつんと弾けた。
その後の送迎会で歌われていた妙にインパクトのある「一緒になれないひとに〜心底惚れました〜」という歌がまるでセツコのことのよう。
旅に出るとその内容はめちゃくちゃでセツコはやっぱりおかしいところがあるなと感じてくる。
姉も変わってはいるがその上を行く。もしくは二人とも同じような性格だったけど妹の方は手痛い敗戦で磨きが掛かったとか。
結果、姪を追い詰めた。もう既に弱っているはずの子を今だとばかりに狙ってしまった。
セツコもまたもうずっと前から弱りきっていたのかもしれない。
付き合いも悪く趣味すらも作らなかったセツコは、喧嘩の様子を見ても若い姪と精神レベルが同じ。だから友達のように付き合えていたし、やがて同じレベルで喧嘩することにもなる。
唯一の友達らしき関係が姪だったこともあり可愛がったが、裏切られたと感じ余計憎くなった。
私はせっかく両親のことを別にしてつきあってあげていたのに、それなのにお前は。
言ってはいけないことを言うのは作品内だけでもこれで二度目。
一度目は送迎会のとき。
つい言ってしまっただけのようでとんでもないことをしている。だからこそ会社を追い出される事態にまで至った。反射的にしてしまった行為ではなく、わざわざ場所を移動して意志を持って行動している。
普通絶対にしない。先輩が定年まで勤め上げた会社をめでたく退職したその日。一番その人にとって嫌なときにぶち壊しにした。みんなの前で。
ごめんなさいとは言うが許されないのも当然のこと。翌日からも出勤しようとするのは無理。
完全な年功序列で終身雇用、女性は特に期待されていない会社だからこそセツコは居られただけだろう。
そもそもお菓子を引き出しに大量に入れっぱなしにしているのも何気ないようでかなり変。セツコは最初から、いそうでいない人。
感情は抑えているだけではいつ溢れ出てもおかしくない。過去から目をそらすだけでなく自分の中できちんと整理しておかなければならなかった。
最初から、セツコは姉とその夫を全然許していないと感じさせる場面が度々ある。二人の娘であるミカを可愛がると同時に奥底ではずっと「あいつらの娘」として見ていた。
それは自分でも意識していなかったと思う。
頭では親と娘は別であることは分かっていただろうし、だから英会話の話も素直に乗った。
しかし、ジョンがセツコのことを裏で話していたことを知り、二人でセツコを見下していたかのように感じた。
「あいつら」の一番大事なものを奪うチャンスが訪れた時、心の底にあったものがとっさに爆発。
それは長年蓋をしている間に巨大な化物に育っていた。
ジョンは良い人だったのに、好意も抱いていたのに、その人を復讐の道具に使ってしまった。
アイラブユーとは言うが、本当の愛とは思えない。
別に特別な人だけが心に闇を持つわけではない。ただその闇が表に出たかどうかの違いだろう。セツコだってわざと闇を培養していたわけではない。気を抜けば誰しもがセツコになり得る。
それでも最後に友人になってくれそうな優しい人に出会えたのはかなりの幸運。幸い鼻の聞く人で命も救われた。
今度こそその人とはせめて普通に付き合っていけるといい。たくさん迷惑はかけるだろうが。