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空いっぱいの涙のemuaarubeequeのレビュー・感想・評価

空いっぱいの涙(1966年製作の映画)
3.6
ついに見てしまった。22歳の田村正和主演、日本初のモッズ映画との触れ込みだった「空いっぱいの涙」。主題歌の破壊力のみ結構知られていた作品だが、レコード化されてない曲がほかにも2曲あるとは知らなんだ。「モナミ」「俺のふるさとは村だった」(正式なタイトルは失念)。

特に後者は正和の魂に触れる大事な歌。しかしステージママ役の小畠絹子には「(暗い曲でイメージに合わないから?)リサイタルでは歌わないように」と禁じられていた。正和のアウトオブキーでノーハートな歌唱のせいもあり、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコのように間違って聴こえる瞬間もある曲だ。

モノクロでなんとなくアーティスティックな画面と粗雑なストーリーや脚本の食い合わせがすごい。モッズではないし、ヌーベルヴァーグにもぜんぜん届かない。1966年はGSブームの直前で、歌謡とロックの区別がだれにもついてない。

しかし演奏シーンで聴こえるサウンドはなぜか耳をとらえる。正和の無修正な歌声に中毒性があるからということもある。だが最大の要因は、バックバンドをあのザ・スペイスメンが担当しているからだ(映画見るまで知らなかった)。あの超ロックなエレキ民謡アルバム「AWA CRAZY DANCE」翌年の演奏だもの。そりゃソフトにいかれてる。

18歳のヒロイン中村晃子(実際は抜群の歌唱力)にわざと音痴に歌わせて正和にダメ出しされるシーンなど下手な冗談のよう。若き正和がそれだけ御曹司だったということだろう。演じる杉俊介は年末のレコード大賞を狙っている。ポスターでは「エレキ」と謳っているが、正和は一貫してアコギしか弾かない。でも乱暴なラストシーンで、すべてどうでもいいじゃないかとなる。何年かに1度見たくなる気がする。

田村正和にとって唯一のレコードとなった「空いっぱいの涙」のB面は「俺はしみじみ唄うのさ」。この曲は映画では流れない。歌手としては秒で引退した正和が、後年はしみじみ唄っていたらよかったなと思う。
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