MasaichiYaguchi

新世紀、パリ・オペラ座のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

新世紀、パリ・オペラ座(2017年製作の映画)
3.6
「ローマは1日して成らず」と言うけれど、世界最高峰の芸術の殿堂パリ・オペラ座の舞台裏を描いたこのドキュメンタリーを観ると、「パリ・オペラ座は1日して成らず」と思ってしまう。
邦題に「新世紀」とあるように、ルイ14世時代から350年以上に亘る歴史と伝統を守ってきたパリ・オペラ座も、押し寄せる時代の波に変化を余儀なくされる。
それは2015年11月にパリの劇場で起きた同時多発テロや、劇場職員の大規模ストライキ、史上最年少でバレエ団芸術監督に抜擢されたナタリー・ポートマンの夫でもあるバンジャマン・ミルビエの1年半での電撃退任、公演初日直前の主要キャストの降坂等の波瀾を呼ぶ出来事以外にも、社会に開かれたオペラ座として、低所得者でも観劇出来るような料金設定と劇場を維持する為の経営バランスを図るという様々な問題を、オペラ座総裁ステファン・リスナーをはじめとした幹部たちが頭を悩ませながらも奔走していく。
また本作は、このような社会の変化の中でオペラ座に所属するアーティストたち、バレエやオペラの演者、オーケストラの指揮者や楽団員、そして夫々の分野の監督たち、彼らは優れた才能とセンスの持ち主なのだが、一つの公演の完成度を上げる為、リハーサルを中心に切磋琢磨する姿を活写していく。
350年以上の歴史や伝統、世界的な知名度に胡坐をかくことなく、常にオペラ座は“新陳代謝”と言えるような、若く新しい才能を発掘したり、小学生向けにバイオリンのカリキュラムを行ったりして、“新しい血”を取り入れている。
この作品はオペラ座に係わるこのような人々以外、アシスタントスタッフや劇場清掃員に至るまでオペラ座や団員を愛する全ての人の姿を、数々の名曲、ワーグナーの「ニュルンベルグのマイスタージンガ-」や「タンホイザー」、ベルリオーズの「ファウストの劫罰」、シェーンベルクの「モーゼとアロン」、イベールの「ドン・キホーテの4つの歌」等で彩りながら浮き彫りにしていて、恰もオペラ座の楽屋にいるような気分になります。