こっ敬省略

リングのこっ敬省略のネタバレレビュー・内容・結末

リング(1998年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

言わずと知れたJホラーの火付け役的映画。
女優霊で実験的に導入され、完成された小中理論を引っ提げた、中田監督が放つはビデオの呪い!
多くの人の脳裏にトラウマとして焼きついたこの映画だが、通常のホラー映画に比べてビックリシーンは極端に少なく、3度程しか無い。
では、何故あれだけの怖さを持つのか?
それは誰もが知っているあのラストシーンがあまりにも恐ろしいからだ。
だが、何故あのラストシーンはあんなにも怖いのか?
その秘密は観客との"暗黙の了解"を破る事にある。
序盤、最初のビックリシーンは、押入れの襖を開けると大音量の不協和音と共に事切れる瞬間のおぞましい顔で死んでいる女性のアップだ。
これは普通のホラー映画となんら遜色の無い演出で取り立ててどうと言うことは無い。
このシーンの時点で観客の多くはホラー映画を見るための体制を整える、つまり驚きへの身構えだ。
だが、この身構えをこそ、中田監督は巧みに利用する。
恐怖シーンに怯え、身構えている観客に対し、中田監督はジメジメとした雰囲気の映像を長々と見せ続ける。
そうして行く内、観客は次第に緊張感は保ちつつも訪れないビックリシーンに身構えを解いてしまう。
そこに次のビックリシーンだ、真田扮する霊能者の力で過去の映像を追体験する主人公。
段々と明らかになる貞子の過去に驚いていると、突如として大きな音ともに貞子らしき少女に腕を掴まれる。
ここで観客の多くは、身構えを解いてしまっていた事を後悔し、再び身構えを整えるのだが、その後のシーンで何やら事件は解決に向かってしまう。
アレ?これで終わり?なんて思っていたのも束の間、衝撃のラストシーンだ。
だが、今度は観客も身構えがある、急にデンッ!と来た所で驚かないぞ!なんて思っていると、よもや中田監督は観客と作り手の間に生まれていた"暗黙の了解"をここに来て突如として破る。
このラストシーン、いきなりのビックリに身構えている観客に対し、貞子はジリジリとおぞましい姿でにじり寄ってくるのだ。
"いないいないばあ"ならば、その瞬間にだけ注意して身構えていれば、然程怖くは無いが、このシーンはどこまでも理不尽に瞬間の恐怖では無く永遠にすら感じる恐怖を観客に叩きつける。
そうして自らの身構えが無意味だったという事に恐怖し、力が抜けてしまった瞬間、最後のビックリシーン、貞子の見下ろしがやって来る。
このように中田監督は観客との信頼関係を逆手にとる事で、常に身構え無しの状態でビックリシーンを叩きつけるように工夫しているのだ。
洋画や凡百のホラー映画ではフェイントをかけるという小手先の技しか持たず、"いないいないばあ"の範疇を出ないが、中田監督は緻密に練られた構成を使ってルールの外側から常に観客を恐怖させる事に成功した稀有な監督であると言える。
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