ベルサイユ製麺

検察側の罪人のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

検察側の罪人(2018年製作の映画)
4.0
これは公開当時、大層話題になりましたよね。そりゃあそうだ、原田眞人監督ですよ!そう、『ガンヘッド』の!! 劇場には若い女性が大挙して詰めかけたと聞きますが、やっぱりみんなガンヘッドが好きなんですねぇ〜。
ん?”J storm”?なんすかそれ?必殺技?


正義の権化の様なベテランのエリート検事、“宇宙を駆ける金髪(?)の異端児”こと最上と、彼に教えを受け、師と仰ぐ駆け出しの検事沖野。
沖野は念願の東京地検に配置され憧れの最上の下に着きます。
最上のフォローを受けながら沖野が捜査に当たったある殺人事件。一見、金目当てのありふれた犯行の様でしたが、沖野の作った調書に列挙された容疑者の1人の名前を見て最上は(平静を保ちつつ)大きく動揺します。
“松倉”!
最上が学生のころ、夢を抱きつつ友らと寝食を共にした寮生活時代、寮の管理人の娘で最上とも(特に)親しかった由季。無残にも何者かに殺害された由季…。未解決のまま時効を迎えたその事件の重要参考人だった男こそ、元少年A、松倉だったのです…!


ストーリーは、大胆に枝葉を落としました。屋久杉から一本の爪楊枝を、鉄郎からネジ一本を作る様な作業です。
しかしこの映画、めちゃくちゃテンポ速いですよ!シン・ゴジラ並みに専門用語がバリバリと並べ立てられ、独特な編集センスでどんどん次のシーンに進んで行きます!以前知人から「朕は邦画も字幕で観るぞよ」と聞かされたことが有り、今回たまたま気まぐれで字幕有りにしてたのですが、コレに大いに助けられた格好です!邦画の字幕鑑賞、オススメ!(特に伊勢谷友介出演作で)
で、主演二人のコトを知らないフリをしてレビューを書こうかと思いましたが、結果的に何も書けないポイズン現象が発生しそうなので普通に書くことにしましたぜ。
ニノはもう役者云々という問題ではなく普通に好きです。勿論、役者としても相当好き。…それで、キムタク様なのですが、…自分は普通のオッサンとしてはかなりキムタクに好感を抱いている方だと自覚してるのですが、実はキムタク主演作って『無限の住人』しか観てないんですよね。でもアレはとってもイレギュラーなキャラクターなので一先ず置いておくとして…、自分の中のキムタクの演じるキャラクターのイメージはと言えば、“年功序列などの旧来の社会制度に風穴を空ける、完全実力主義の型破りな若者たちの代弁者”(←そして、これを一言で表せない自分の愚鈍さ…)という感じだったのですが、今やエリート検察官、の後輩の模範とされる様なバリバリ権威主義的な役をやるようになるなんて隔世の感でありますよ。時間は流れるモノですねぇ。その内、電話も持ち歩ける様になるんじゃないですかね?
…無駄な前置き書きすぎちゃって、感想書くの面倒になっちゃったなぁ…。

…この映画、凄い好きなんですよ。
冒頭の異常な説明台詞の応酬に戸惑いつつも“…いや、検察ってそんな人達ばっかなのかもな”…とか思い出したらもう最後!この作品のペースにまんまと巻き込まれちゃってます。ちょっとくらい不自然だろうが芝居がかってようが、“知らないけどきっとこうなんだ…”ってな案配です。挙句、何とも言えないムード音楽みたいな劇伴も“敢えてこれだな?”みたいに擁護する、言わば共犯関係を結ばされてる様な雰囲気にすら嵌まり込んでしまいます。
サスペンス的な部分のメインになる、“松倉”の過去、現在、行く末を巡るドラマ自体は、実はそんなに新鮮味はありません。そもそも、別段推理物として機能するように設計されてないようですし。じゃあ、一体何処が面白味になるのか?と言えば…
《善悪の彼岸に突き進む最上と、正義の有り様に苦悩する沖野の伏し目がちの鍔迫り合い》…やっぱキムタクvsニノに見入っちゃうんですよねー。別段この二人を格好良く、魅力的に撮ろうという意図は(敢えて)無いと思うんですけど、例えば松倉を恫喝しまくるニノのダーティーな一面には想像力を刺激されまくりますし、気丈に振る舞いつつも内圧がプシューってなってるキムタクの表情はドキュメンタリーを観てるような気分…。やっぱりこの2人の(イレギュラー装いの確信犯的な)佇まいで引っ張ってるって面は小さく無いと感じました。
トリックスター的にストーリーを転がす松重豊もホント最高です!引いた空気感で意識持って行っちゃうんですよね。
…って感じで、この3人も素晴らしかった。

…でも、それ以外の要素がごちゃごちゃし過ぎてるように思えるんですよね…。吉高由里子の×××設定も最大限活かしてるとは言い難いですし、旧友・丹野と最上のストーリーも(最期まで!)ハッキリした実線にならなかったし、日本会議を連想させる勢力(ビジネスホテルやってる奴!!)のネタも超ソリッドながら、物語とうまく噛み合って無いですし、体重のせて度々放り込んでくるインパール作戦の話も同様です。
これ、ごく単純に言って上下巻の原作を127分に無理矢理盛り込んだ弊害なんでしょうね。書籍で、じっくり自分のペースで読みながら考えれば、例えば最上の正義と、日本の行く末、インパールの結末なんかを上手く咀嚼・消化していけるんではないかと思うのですが、今作の異常なペース感・情報量の中にあっては多くの要素が寧ろノイズになっている気すらします。
思い切って丹野周りの政治ネタをバッサリ削ぎ落として、もっとじっくり最上の内面を掘り下げる構成の方が観やすいし、共感も呼べたのでは?…正直、後半の最上の大胆過ぎる行動は結構置いてけぼり感有ったんですよねー。勿体ない!…まあ、政治的なネタが映画化のマスト条件だったのかもしれませんが…。

結構グチグチ書いてしまいましたが、トータルでは大満足でしたよ!度々見られる“舞い”のイメージの意味を考えるのも面白そうだし、単純に検察のシステムも興味津々です。ラストシーンの先はタイミングによって違う想像が膨らみそう…。ホントは何度か観返すべきなんでしょうねー。
…でも、それより見たいのは松重豊演じるフィクサー諏訪部のスピンオフですよ!仕手戦や絵画ビジネスでのし上がる諏訪部!やがて、彼の後継者になる若者が!(池松壮亮)
よし!更にコレを漫画にしてもらおう!作者は勿論、福本伸ゆ…

《おまけの嘘知識コーナー》
…キムタクの、例のハンバーガーを掴むときの手つきは、実は“世界にひとつだけの花”の5人で歌い出すパートの最初のギターコードを押さえているのです!…今は離れ離れになってそれぞれの舞台で活躍する元メンバー達へのキムタクからの無言のメッセージだったというわけですね。
ああぁ、イイ嘘ついたなぁ!これからも定期的に良い嘘はついていきたい。