むっしゅたいやき

ミツバチの谷のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

ミツバチの谷(1968年製作の映画)
4.5
犠牲と信仰の物語である。
フランチシェク・ヴラーチル監督作品。
『Marketa Lazarová』に続くヴラーチル中期の歴史映画であり、同作の制作費がペイ出来なかった為、衣装を使い回す事を前提として制作された作品である。

ヴラーチル中期作品の特徴として、「体制に制限される個人」を描写している事が挙げられよう。
特に本作の発表された1968年、チェコスロバキアでは"プラハの春"が起こっており、これは其の儘本作でのチュートン騎士団=社会主義政権を示唆していると考えられる。
本作で主役を演じたペトル・チェペクが、同国がビロード革命を成し遂げ、チェコ共和国とスロバキア共和国へ別れた翌年、其れを見届けたかの様に亡くなっている点にも留意されたい。

本作は禁欲的キリスト教世界(=社会主義体制)に於ける『節制』とは何か、をテーマとしている。
曰く、『自由や愛と云う物は、信仰や制度に因って阻害され得るべき物なのか、また其れを他人へ薦める事は、尊いことなのか否か』である。
自身の回答は控えるが、ラストシーンでオンジェイがチュートン騎士団へ戻り孤独を噛み締めた事は、図らずも現実に"プラハの春"がワルシャワ条約機構により鎮圧され、チェコスロバキアにソ連軍駐屯地が設置された出来事にも重なって見える。

当時ヴラーチルが祖国の解放運動をどう見ていたのかは知り得べくも無いが、個人的には本作が彼の心境を最も如実に現しているのではないか、と感じる作品である。
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