垂直落下式サミング

ウィンター・ウォー 厳寒の攻防戦 オリジナル完全版の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.5
フィンランドとソビエト連邦の間でおこった冬戦争を題材にした作品。その勃発から講和条約締結までを、前線に送られたフィンランド兵士たちの目線で描く。次々と倒れていく友の姿を記憶と魂に刻み、若者たちがボルシェヴィキ絶対許さないマンとなっていく様子を撮した作品がオリジナル完全版でやってきた。
「我らが国土を渡してなるものか。1m四方ならばすぐにくれてやろう。棺を埋めるためのな!」この好戦的ながらウィットに富んだ台詞は物語の冒頭に発されるものだ。急な徴兵で死地に送られることにまだまだ実感のない新兵の多くは、そうそう闇雲に戦闘になんてならないだろうとたかをくくっているのだが、階級章、認識票、そしてライフル一挺を与えられ、訓練もそこそこに国境付近の重要拠点へと放り込まれてしまう。この経済的な余裕のなさや、百戦錬磨の老兵が呆気なく倒れていく寄る辺なさ、士官から一兵卒まで平等に命を刈り取られていく無慈悲さは、近代戦争とはこれまで人類が経験してこなかった地獄であることをこれでもかと突き付けてくる。
特筆すべきは爆薬の量だ。三時間近い上映時間は、ハリウッドを凌ぐほどの爆発と破裂音が止めどなく繰り返され、「芸術は爆発だ」と言わんとするかのように爆炎が粉塵を巻き上げ炸裂する瞬間を撮すことに費やされる。シーンがカットされた劇場公開版は恐らく爆破シーンのどれかが省かれたんだろう。そっちを先にみていたら、全然印象が違ったかもしれない。
戦車砲と空爆の衝撃によって木々はなぎ倒され、破片を浴びた兵士たちは地に突っ伏してゆく。もはやリズミカルですらある破裂音。森だった場所は徐々に野晒しとなり、塹壕の堀りは次第に浅くなり、その代わりに敵兵の死体の山が弾除けとなる地獄の光景だ。この景気のいい樹木なぎ倒しっぷりが凄まじい。森林破壊最高!針葉樹林は死ね!
最後に待ち受ける事態の終結は、いくら忠実に任務を全うしようとも、政府の決断次第で今までの努力も犠牲もすべてが無駄となってしまうという無情なもの。決定権を他に委ねながら命懸けのフロントラインで戦うということの報われなさを説いていた。