糸くず

グッド・タイムの糸くずのレビュー・感想・評価

グッド・タイム(2017年製作の映画)
3.6
実は、この映画を観る前にサウンドトラックを購入していた。スコアを担当しているのがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーだったからである。といっても、映画ファンにも映画音楽のファンにも馴染みの薄いミュージシャンだと思うが、今のテクノ/エレクトロニカのトップを走る鬼才である。

アルバムそのものは素晴らしかったが、これが劇伴として聴こえてくることが全く想像できない音楽だった。

今回、実際に映画を観ることでそうした感想が裏切られることを期待したが、残念ながら音楽の主張が強すぎて映画から浮いてしまっていた。というより、音楽の強さに物語が負けている。

この映画の話は、ものすごく単純に言うと、「間抜けな男が間抜けなことをして追い詰められていく」という話で、どうしても「だからどうした」と言いたくなる気持ちがぬぐえない。兄弟の関係性が具体的なエピソードで明示されないまま、弟の保釈金集めに奔走する兄をひたすら描かれても、気持ちの置き所がない。

ただ兄の無計画な行動を見る限り、この二人の兄弟愛は健康的なものでは決してないことは明らかである。兄は他人の善意をありがたく受け取るが、その他人が邪魔になると平気で切り捨てる。行動に一貫性がない。こうした人間が、本当に親しい者にだけ優しく振る舞うことはないだろう。

この映画で最も素晴らしいのはエンドロールである。イギー・ポップの歌声が流れる中、部屋を横切っていく男女がずっと映される。ただそれだけなのに、この場面は美しい。弟ニックの兄に対する思いが、「部屋を横切る」というたった一つの行動に凝縮されている。映画はここで終わるが、本当の物語はむしろここから始まるのではないか。そんなことを思わせる瞬間だ。

マイケル・マンの映画のような艶やかさがありながらも、どこか粗野で底辺を感じさせる闇と光の描写も忘れ難い。事実、監督のサフディ兄弟はマイケル・マンの『クラッカー/真夜中のアウトロー』を意識していたようである。それも納得の「夜の街」の物語だった。
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