笹井ヨシキ

少女ファニーと運命の旅の笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

少女ファニーと運命の旅(2016年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

気になっていたので鑑賞して参りました。

ナチスドイツの占領下のフランスで、ユダヤ人孤児たちの逃避行を描いた実録モノというプロットだけを聞いた段階では重たい雰囲気の映画なのかなと思っていたのですが、画面に映る少年少女たちの子供性ゆえの輝きが陰惨さを中和しており、最後には多幸感を感じられる作品となっていて面白かったです。

まず良いなと思ったのは、暗さよりも子供の強さや輝きを感じられる内容となっていたところです。

主役のファニーが率いる少年少女たちはまだ幼く自分たちがどんな状況かイマイチ理解していないのですが、だからこそ何かしら面白いことを見つけてすぐ遊び初めてしまう楽観性を持っていて、張り詰めていた緊張感に救いをもたらしています。

この話は子供たちにとって大変辛く絶望的な旅だったと思いますが、そんな辛い物語の中にも確かに存在した幸福感を子役演出の自然さで見事に切り取っていて、大変誠実な歴史観を持った作り手だと思いました。

「この世界の片隅に」の時も思ったのですが、我々が過去の歴史を考察するときに犯してしまう過ちとして、「空襲があった、迫害があった=辛い」と事実から当時の人々の感情を逆算し決めつけてしまうことだと思うのですが、実際はそれだけでなく楽しいことや喜ばしいこともあったはずで、むしろその幸せを描くことこそ当時を生き抜いた人々への敬意となるのかなと思います。

そういう意味で今作は単なる悲観的な内容に終始せず、楽しくなるマインドを捨てなかった子供たちの鈍感さ故の強さを感じることができる描写が多々あり、暗さよりも明るさを感じることができるところが好きでした。

また一貫して主人公ファニーの目線で物語が進行するので、時代背景の複雑さが理解できなくとも「よくわからないこと」がサスペンスとなり臨場感に繋がっていたところも良かったですね。

一番年長者だったエリーが捕まったことで急遽リーダーに抜擢され、プレッシャーを押し殺しながら奮闘するファニーの姿を主演のレオニー・スーショーちゃんが好演しているのが印象的で、不測の事態に判断を迫られる焦燥感、待ち合わせ場所に着いてもなかなか待ち人が現れない不安感、次にどこに行くべきなのか暗中模索する必死さなど、彼女の表情・立ち振る舞いで表現できていてとても素晴らしかったです。

「思い出が見えるカメラ」や「エリーに託された手紙」の使い方も巧くて、ファニーの成長を後押ししてくれています。

両親に再び会えることを原動力にしてきたファニーが、カメラを手放し前を見て生きる決心をする描写もベタといえばそれまでですが好きだったし、託された手紙の意外な内容も良かったですね。

エリーの不信感で始まった旅が手紙によりエリーへの信頼感に変わり、ラストでファニーが「ジグザグ」に走る姿へと集約していくのもカタルシスがあり見事でした。
ゴールラインが決まっているのは若干潤色を感じなくもなかったですが、子供たちが自ら為すべき目標を決め掴み取った勝利という描写になっていて良かったです。

ナチ映画としては直接的な暴力や生理に訴えかける不快さはあまりないのでヌルイ印象が否めないのは難点ですが、子役映画として子供の持つ強さ、輝き、希望が感じられる作品です。
笹井ヨシキ

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