TaiRa

リバー・オブ・グラスのTaiRaのレビュー・感想・評価

リバー・オブ・グラス(1994年製作の映画)
5.0
「私ぐらい孤独な人間、他にいるんだろうか──いた。隣の郡に」

女は余りにも退屈だった。自己規定が揺らぐ程の退屈。夫を仕事に送り出し、幼い子供たちの世話をして、空いた時間を埋める事も出来ずくるくる回ってみたりする程の退屈。女の父親は拳銃をなくした刑事。何処を探しても見当たらない。年下の上司に説教食らう。昔はジャズドラマー目指してた。拳銃より大事な物なくした気がする。隣の郡にいる男は仕事もせず実家に寄生中。友達が拾った拳銃貰った。何者かになりたい、と願って許される歳なんかとっくに過ぎてしまった大人たちが、余りにも退屈で出会ってしまった。人は退屈に耐えられないから。だけど『地獄の逃避行』は一向に始まらない。人を殺したつもりでいるけど。ろくに強盗も出来なかった。逃避行にもならない不発の彷徨がだらだらと続いてゆく。何処までも続きそうなハイウェイの上に立って、何処かへ行ってしまいたいと思うけど、ポケットの中に金が無い。何かを打ち破りそうな欲動の象徴たる拳銃が何かに当たる事はない。ゴキブリすら殺せなかった拳銃で女は何かを撃てただろうか。映画の中の現実と夢に大した違いはないからどっちでも。ただ願望だけは切実に映った。元いた場所に戻った拳銃の様に女も戻るか。どっちにしたって、何処にも辿り着かないハイウェイを走って行く様なものだよ、大概の人生は。
TaiRa

TaiRa