不在

リバー・オブ・グラスの不在のレビュー・感想・評価

リバー・オブ・グラス(1994年製作の映画)
4.4
ジャズドラマーの父を持つコージー。
彼女の母は彼女が幼い頃に家を出て、サーカスで綱渡りをしていたと語られる。
そして大人になった今、彼女は法律やルールという名の線の内側にいる。
そこでは父や夫の庇護の下に危険から遠ざけられるが、その代わりに一切の自由がない。
大人と呼ばれる年齢になったら、自分もまた誰かを守らなければならない。
コージーは線の向こう側を夢見ていた。
自分に本当の名前を与えてくれる何かが、そこで待っている気がした。

今作における拳銃は、男の権力の象徴だ。
冒頭で自分の銃を無くしてしまった父親は、完全に威厳を失った人間として描かれる。
それを拾った男性のリーも結果的にコージーを閉じ込めてしまう。

やがてその銃にまつわる事件が起き、逃げ出した彼女はまるで父のドラムのように自由で、思いのままに生きるが、何故か街から出ることはできない。
ジャズの即興演奏はその場の思いつきで全てが自由だと思われがちだが、実際にはコードやスケール、そして楽譜といったものに囚われている。
現状から抜け出せたと思っていた彼女も、結局は誰かの支配からは逃れられず、世界に幽閉されているのだ。
それに気付いた彼女は持っていた銃を捨てる。
立場や権力を捨て去り、父親の書いた楽譜から抜け出していく。
法律を飛び越え、五線譜という線すら乗り越えた彼女は、母のように危険で、しかし自由な、自分だけの人生を手に入れたのだ。
不在

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