明石です

リバー・オブ・グラスの明石ですのレビュー・感想・評価

リバー・オブ・グラス(1994年製作の映画)
5.0
「ずっとそこにあるのに今まで考えもしなかった。ある時気になりだしたの。この高速道路はどこにつながっているのだろう」

夫に逃げられ子育て等の家事は山積。まだ若いのにどこにも行けない鬱屈した日々を送る女性が、一夜の火遊びのつもりで男と出会い、ひょんなことから男の持っていた拳銃で人を殺してしまい、逃避行に出る。数年前に日本初公開された際、近くの映画館でやっていたもよのコロナにかかり間に合わず断念して以来、気になっていた作品。76分でこんな心に染みる、良い映画を観た後に特有の喪失感。素晴らしい作品でした。

ストーリーの大筋はアメリカ映画ではさほど目新しくない逃避行ものというサブジャンル、のはずが、なかなか逃避行には出ず、殺人現場の近くのモーテルに何日も居座るカップル。「すべてを捨てたのに同じ場所にいるなんて不思議ね」何もかもが行き当たりばったりなので、何ひとつ思うようには運ばない。そして明らかになる事実(どんでん返しではない。主人公が勘違いしていただけ)。彼女たちは誰も殺していなかった、、からの素敵なバッドエンド。本当は何も失ってなかったのに、本当に失うことになる主人公。逃避行というのはこぢんまりとしていて、それが癖になる。

警官が落とした拳銃がアウトローの手に渡り物語が転がり始め、しかもその銃弾が人を殺しマズイ立場に追い込まれる警官のサイドストーリーは黒澤明の『野良犬』から、何もかもが無軌道な男と世間知らずの少女風の女性が殺人を犯し旅に出るというのは、ナレーションの雰囲気含め『地獄の逃避行』のオマージュ。法律の枠外に出ることに憧れながら、一度出ると、その現実を退屈さを知り日常に戻りたくなる。アウトローを夢見るのは、それが日常の外にあるからであって、一度外に出ると、それが今度は日常になってしまう。そうして少女は大人になる、的な感じ。つまり何が言いたいといって、すごく私好みの映画ということ。

ー好きな台詞
「結局のところ、犯罪は結婚より一大事で、私たちはこの人生に縛られた」
明石です

明石です