Ricola

白い鳩のRicolaのレビュー・感想・評価

白い鳩(1960年製作の映画)
4.1
息を呑むほど衝撃的で美しすぎるショットの数々。
抽象的な表現が多く、咀嚼していくというよりかはただ圧倒されるばかりであった。

少女の白い鳩が、アパートに住む少年の元にやって来る。


少年、少女の真っ直ぐで突き刺すような眼差しがもはや苦しい。
特に少年の笑顔から徐々に真顔に変化するのが怖い。
別にサイコパスとかそういうことではなく、彼の純粋がゆえの計り知れない心の深さにゾクゾクするのだ。

鳩を追うようにくるくると天井が回るように見えるシーンにははっとさせられる。
ガラスにつーっとつたる血は、不気味さと美しさが表裏一体にあるのではないか。

見事なある意味アクションつなぎのショットの流れにドキッとした。
彼らの行動をリンクさせることで、2つの場にいる二人の人間をきちんと繋ぐ。

戸を開けて外の世界へ行く、もしくは戸から中へと入るという行動が何度も繰り返される。
どちらにしろ中が、こちらから見た手前の部分が暗い。
しかし、ある一時からその光と影のはっきりとしたコントラストは描かれなくなり、全体的に画面が白く明るくなる。
彼の心境の変化や未来の変化を表しているのだろうか。

映像美というか不思議な感覚に陥る映像表現は他にもある。
マンションを斜め上から、または下から垂直に上を撮ることで、マンションの垂直の線などが幾何学模様のように強調される。
謎の空間を浮遊している気分におちいるのだ。

黒猫という悪魔の化身ともいわれるモチーフと、平和の象徴でもある白い鳩という二項対立が、分かりづらい表現の補佐的な情報として機能しているようだ。

波の音と教会の鐘の音が混ざり聞こえる、ラストの美しさはなかなか他では味わえないのではないか。
チェコスロバキアの当時の社会・政治状況や歴史や宗教についてほとんど知らないが、そうであっても斬新に感じる映像表現を鑑賞するだけでも面白いと思う作品だった。
Ricola

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