セッセエリボー

白い鳩のセッセエリボーのレビュー・感想・評価

白い鳩(1960年製作の映画)
4.5
マルケータ・ラザロヴァー予習。チェコ語わからないので先にファミコン画質の英語字幕付きを観てからチェコ国立映画アーカイブ公式の高画質版を見たが確かにこれはよくできててすごかった。ベルギーから帰ってくるはずの白い伝書鳩を心待ちにするバルト海の少女スーザン、しかし鳩は途中で嵐に遭ってチェコに流れ着いてしまう。鳩からインスピレーションを得る画家の男と、鳩を傷つけてしまった心に闇を抱える少年の交流が、鳩の帰りを待つスーザンおよび彼女を案じる不器用な兄の姿と交互に描かれる。
まず冒頭数分のベルギーパートがなんかすごい、これ一体どんなロケーションなの。きらめく海と降り注ぐ陽光を舞台に描かれるバルト海パートはベルイマンばりのパワフルな顔面とモチーフの配置が非常に行き届いていて、夢のような美しいイメージで溢れていて圧倒される。扉を開けて海へ出ていくスーザン、日傘の陰で眠る顔、海上を疾走する車。バルト海パートは雄大なスケールで展開される横移動が印象的だが、対してチェコパートは上昇と落下、見上げる/見下ろすといった縦方向の運動を契機とする。少年が闇に閉じこもるくだりをはじめとして、バルト海とは対照的な無機質で強迫的なイメージが並ぶ。さらにチェコパートで特徴的なのは視線を攪乱するようなトリッキーな画面の使い方で、どこに視点が置かれているかがしばらく見ていないとわからないようなショットが多い。驚くほど複雑な鏡の配置をはじめ、何枚ものガラス越しだったり影や反射だったりと、対象そのものを直接見ることがしばしば阻まれる。画面そのものをキャンバスにして絵が描かれていくシークエンスがその白眉か。他愛のない話ながら会話にほとんど頼らずひとつのショットの中で流れるように展開を進めたり編集で軽々と距離を跨ぎ越す卓越したナラティブにも瞠目させられる。