QTaka

女は二度決断するのQTakaのネタバレレビュー・内容・結末

女は二度決断する(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ネオナチによる実際の連続テロ事件に着想した脚本だというが、この映画は、一人の女性の、事件に巻き込まれた女性の物語となっている。
着想に〝ネオナチ〟とか〝外国人を狙ったテロ〟と言った言葉が並ぶ事から、社会的な意味を探そうとするように見受けられるけど、多分そうじゃないと思う。
これは、終始、女性の姿を描いた映画だと思う。
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この映画は、三つの章立てになっている。
〝1.家族〟〝2.正義〟〝3.海〟

〝1.家族〟の中で事件が起こる。
結婚し、家族となり、子供とともに家庭を築いていた女性の姿が、ワンカットにして悲劇に巻き込まれ、我を忘れ、絶望の淵に追い込まれていく。
後の裁判に続く複線がいくつか盛り込まれているけど、描かれているのは一貫して女性の姿であり、その心の様子であったと思う。
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〝2.正義〟の章が見るものに強烈な印象を残したと思う。
つまり、あまりに理不尽な裁判の展開と結末に見るものは動揺すら覚えるのだと思う。特に、被告弁護人の振る舞いが強烈だ。(有る意味名演だね)
この裁判だけを見ると、本当にドイツが嫌いになる。
でも、裁判シーンとしては、いつもの展開とも思える。
『裁判は理不尽なもの』と相場は決まっている。
この裁判の顛末を意識しすぎるあまり、映画の本質を見失ってしまってはいないだろうか?と思う感想が多く見られる。
裁判の日々の間、すっかり壊れてしまった生活の中で。
彼女の心は、事件直後のぼろぼろの状態からなお立ち直れていない。
彼女の体のリズムもくずれていく。
この章で描かれていたのは、そんな今にも倒れてしまいそうな女性の姿だったと思う。
そして、あの判決は彼女を復讐へかき立てる事になったというのも、その彼女の状態からの事として表されている。
もう、その時点で彼女の選択はそれしかなかったように見えてくる。
それは、混乱の末の〝狂気〟だったと思う。
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〝3.海〟の章が最後に残る。
この章は、〝復讐〟でもなく〝失望〟でもなく、〝海〟。
この章の始まりで、彼女は復讐のターゲットを見つける。
そして、復讐の準備をする。
そして実行に移す。
そこで、立ち止まる。
復讐しか選択肢がなかった彼女が、その時立ち止まったのはなぜ?
爆発物を持ち帰って、コテージの前で一服するその表情は、違っていた。
この表情について、私の感想は「間に合って良かった」でした。
つまり、混乱と狂気の嵐がこの時ようやく止んだ。
あの裁判を通じて、あるいは、その判決から凶行に走った、その嵐のような感情の高まりがようやくここで落ち着く時が来たという事でしょう。
心も、そして体も少しずつ元の自分に戻っていく。
安らぎが訪れたのかもしれません。
ただ、そこには、ほんとの安らぎは無い事にも同時に気付いてしまったのかもしれませんね。
そして、〝海〟です。
押しては返す波のせいでしょうか。
感情が揺れ始め、その揺れは波に同期するように大きくなって行き…
最終章の〝海〟は、まさに彼女の心の葛藤や揺れを表しており、さらにその波の力が彼女をして最後の行動に走らせてしまう。
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終始一貫して、女性の心と行動を描いており、主人公を演じたダイアン・クルーガーは、その心の揺れをその表情で、仕草で演じていました。
この映画は、この女優の名演に尽きる一本だったと思います。
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