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女は二度決断するの3110133のレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
4.1
芸術作品は道徳的善を語る必要はない。

この物語は決定的なミスリードによって構成されている。劇中、家族をテロで殺された主人公の女性は、若いネオナチのドイツ人ふたりが犯人であることを疑わない。鑑賞者も自然とその視点に同化させられていく。
公判でのやり取りでの苛立ちは、まさに自分のことのようにすら感じてしまう。

だがこの視点こそ明らかなミスリードによる。ネオナチのふたりが犯人である決定的な証拠などどこにも描かれていないのだから。トルコ移民である夫が誰かに殺される動機があったかどうかも明らかにはされていない。

鑑賞者はいつのまにか、何者かを悪として決めつけるという偏見に飲み込まれている。

彼女のハムラビ法典的な報復律は決して道徳的善ではない。それは民主主義国家が敵とみなすテロリストと同じである。
犯人であることの確証もないままに、偏見と思い込みのままに報復する。そしてその愚行に同化・共感すら覚えてしまう私自身も、同じ穴の狢である。

芸術作品は、その愚かさを表面的に批判し道徳的善を語るのではなく(話せば分かるとか、愛をもって許すとか)、その愚かさを開示することで、またそれから逃れられないということを示すことで充分である。

自らの死を持って、この不甲斐ない報復の連鎖=虚無から抜け出すということではなく(それでは自爆を称賛することにしかならないし、犯人と見なされた男の父親の存在を無視すべきではない)、自爆を含めた構造自体が虚無であり、そこからいかに抜け出しうるのかと問われているのではないか。

『女は二度決断する』って邦題、それはそれで嫌いではないけれど、それこそ映画の解釈を無駄に誤らせるミスリードでどうかなと・・・。これが1度目で、これは2度目で、あれ、じゃあこれは3度目?とかって考えてしまった。

原題通り『虚無から』とかだと主題も見えるのだけれども。
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