Ricola

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それから(2017年製作の映画)
3.8
キム・ミニの受難の様を目の当たりにする。どんなに人間と社会の愚かさや醜さから攻撃されても、ミニ演じる主人公アルムは真っ直ぐ素直なまま、美しい世界に馴染む存在であり続ける。

聡明な女性vs卑怯で自分勝手な人たちという構図が、滑稽にも切なくも描き出される。ホン・サンス特有の繰り返しの演出に、この構図に対する皮肉が一層込められている。


ズームは言うまでもなく、ホン・サンスが多用する技法の一つであり、彼らしさを物語るのに重要な演出である。
ある会話シーンのなかで、社長とアルム(キム・ミニ)のひとりひとりを映すためにカメラが動いていく。
このカメラワークのおかげで、それぞれの反応をじっくり観察することができる。
一定の往復を終えたあとカメラは引いて、画面内に二人を収め、そのまま距離を保ち観察の視点を貫く。

また、社長とアルムが二人で食事をしているシーンのカメラワークについても言及したい。
ロングショットからカメラが構図を微調整するように少しだけ彼らに近づくと、会話の内容が深入りしたものになる。
カメラは交互に一人ずつ映し出す。アルムが彼に人生観について質問を投げかけたことがきっかけで、この動きは起こる。
「本当に信じられるもの」を探したいアルムと、そんなものは実体がないと言う社長。正反対の意見を持つ彼らの議論はどんどん白熱していく。

続く社長と浮気相手のチャンスクの食事シーンで、アルムとの違いが浮き彫りになる。
店の外での社長のタバコシーンをはさみ、アルムと食事をした同じ店で、チャンスクと食事をする。
その光景をカメラが引くことはなく、クロースアップショットで終始映し出す。
チャンスクは酔っていて社長を否定する。
明らかに社長はアルムのときと態度が違う。チャンスクは泣き崩れ、社長はうつむくことしかできない。

このように、二人以上で向かい合わせで座って同じものを食べて話すことは、この作品に限らずホン・サンス作品における主題の一つである。
それは距離を縮める行為であり、それぞれが自己開示をする契機として繰り返される。

神様を信じているというアルム。
タクシーに乗っている彼女が、降り始めた雪を見るために窓を少し開ける。
それをキラキラした目で見つめる彼女の顔にかかる影と鮮明な光が、車の進むスピードとともに動いていく。
利己的で頭の固い人たちに振り回され傷つけられても、美しい世界が彼女を勇気づけてくれる。

「自分は主人公ではなく」「何もかもが大丈夫で美しい」この世界を信じると、このように全肯定するアルムは理想主義者なのかもしれない。
眩しいほどの彼女の勇姿は、廃れた心に染み渡るほど神聖で、わたしもこうありたいと心から思うものだった。
Ricola

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