むさじー

それからのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

それから(2017年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

<不倫話に見るややこしい男女の機微>

評論家で小出版社を営むボンワンの元で働き始めた女性アルムは、ボンワンの浮気を疑う彼の妻から浮気相手と間違えられて、出社初日に暴力を受ける。浮気相手は前任者のチャンスクだった。そして、外国に行ったという彼女が戻って来たことから、アルムは更なる騒動に巻き込まれてしまう。
映画中、ボンワンからアルムに贈った“好きな本”が漱石なのだが、漱石の『それから』とどう関係するのか。ストーリーの上では無関係のようだが、深読み癖から紐解いてみると‥‥。「捨てる、捨てられる」と「生き直す」のキーワードで繋がるのでは、と思えた。
映画は優柔不断な男としたたかな女の不倫話で、男の妻が絡んだ三角関係の「捨てる、捨てられる」の繰り返しなのだが、漱石の小説でも主人公の男女が好意を持ちながら別れた理由は、感情のすれ違いから生じた誤解だった。男は女を捨てるように友人に嫁がせ、女は捨てられたと思ってその男との結婚を承諾した。
やがて小説では、女の不幸と自らの本心に気づいた男が、高等遊民の生活を捨て愛する女と生き直そうと決意するのだが、映画では男が我が娘の姿を見て娘のために生き直そうと決意する。やや無理があるとは思うが、ヒトクセある監督なのでこんな含みが考えられなくもない。
ずるくて気弱な文化人を巡る他愛のないゴタゴタだが、時間軸の揺らしに惑わされ、哲学・宗教の話に及んだりと、掴みどころの無さが面白い。そして優柔不断な男は、当時ヒロインと不倫関係にあった監督自身を投影しているようで、スキャンダルを自虐的に描くあたり、やはり一筋縄ではいかない。
むさじー

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