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それから(2017年製作の映画)
3.8
 男は朝4時に起きて、決まって朝食の席に着く。だが料理を作るのは自分自身ではなく、それに付き合わされる妻である。ボンワン(クォン・ヘヒョ)は著名な評論家で、社員1名の出版社を営むやり手の社長だった。演技だけでなく、実際も夫婦であるクォン・ヘヒョと彼の妻(チョ・ユニ)とのやりとりが妙に生々しい。あなたの表情が最近変よ、運動しないのに最近痩せたわね。朝ご飯を口に運ぶボンワンを尻目に、ネチネチと何か言いたいことがあり気に牽制した後、女は単刀直入にこう切り出す「あなた、浮気してるわね」と。突然切り出された女の直感に男は一瞬躊躇した後、評論家らしい冷静な態度で粥を黙々とすする。「何をバカなことを・・・」男は平然と食事をし、身支度を整えてから、「図書出版カン」へ向かう。しかしながら彼の足は別の場所へ向かう(この時、時間は過去へと移り変わる)。ボンワンはチャンスク(キム・セビョク)という女に入れ込み、彼女の肩にもたれかかる。死角になる場所で、彼女と抱き合う男だが2人の恋はもう終わってしまった。モノクロで叩きつけられるような公園の健康器具の手すり、男は真っ白な息を吐きながら、チャンスクとのことを思い、ただひたすら涙する。

 アルム(キム・ミニ)が出勤したのは、その直後のことだった。本や資料がうず高く積まれたデスク、2人で働くにはあまりにも広い部屋とクラシックのCD、コーヒーを入れてくれた上司に、今日初出社の彼女は子供のように幾つも疑問を投げ掛ける。アルムは評論家の彼に敬意を持ち、自身も文芸誌に応募する意欲的な女性だった。その日の昼食、中華料理屋に誘われたアルムはメンターとなるはずの上司に問い掛ける。「人は何のために生きるのか?その生きる目的とは?」評論家の彼は朝の妻の問いかけ同様にゾッとし、少し考えてから言葉を繰り出すが、彼女の心には刺さらない。軽喜劇的なスタイルで綴られる社長と彼を巡る3人の物語は、彼の妻とその愛人との間にアルムを置くが、彼女は一切ボンワンとは関わり合いがない。皮肉にもチャンスクではなく、英国に戻ったはずのアルムはチャンスを勝ち取り、再びボンワンの前に現れる。しかし喜んでくれるはずの人物は、彼女に意外な反応を見せる。物事はいつもままならない。彼女にある日降りかかった不幸は、赤の他人にとっては違う景色で、異なる時間の流れを持つ。モノクロで叩きつけられる映像、男と女の諦念と光と闇、そして狡猾に浮かび上がる成功と挫折。夏目漱石の「それから」をアルムに届けた男は、一瞬だけ雑菌だらけの世の中に這い出す。
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