南

ビューティフル・デイの南のレビュー・感想・評価

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)
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リン・ラムジー監督による、徹頭徹尾アンダーステートメントでドライな演出が光るミステリー/サスペンス作品。

主演はホアキン・フェニックス。

『ザ・マスター』
『ジョーカー』
『教授のおかしな妄想殺人』
『her』

など(多くの場合いつ爆発するか分からない暴力性を抱えた)精神的に不安定すぎる男に定評のある彼が、今作でもタフでありつつ心にイバラを持つ中年を好演している。

『ジョン・ウィック』よろしくアクション盛り盛りの復讐劇にも出来そうな筋書きだが、エンタメとして消費されやすい派手な見せ方を控え、内省的で抑制の効いた描写を貫いているのがユニーク。

暴力の繊細な扱いがとても印象深い。

いくつか例を挙げる↓

主人公による敵アジトの襲撃は、「監視カメラの端っこに少し映りこんでました」という体裁でよく見えないようにしてある。

汚職警官の首を締め落とすシーンは、乱闘を直に撮影するのでなく、鏡に映った様子を静的なショットで捉えている。

自宅に侵入した敵を返り討ちにするシーンも、銃撃そのものは画面に映さず、銃声だけで表現。

主人公が黒幕の邸宅に忍び込んで警備員を殺害する際も、現場は見せず、倒し終わった後の光景だけを見せる。

白眉は、ヒロインが変態政治家の首をかき切って殺害する現場をバッサリ省略するという英断。

ゴロリと無造作に転がった死体だけを見せることで、この場所で何が起きたのかを暗示する。

アクションやドラマ性という装飾を排した剥き出しの暴力演出は、コーマック・マッカーシーの小説を読んでいるようだった。

そしてテーマの面。

腕っぷしは強いが、過去のトラウマによる心の傷から逃れられない弱さを抱え続ける中年男。

華奢で弱々しい見た目ながら、逆境に対して瞬時に適応し切り替え立ち直る、精神的に強い少女。

今の時代に描かれる必然性の高いメッセージが、上記のシニカルな対比にこもっているように思う。

魂のレジリエンスに秀でた女性を描いた作品と言えば、今作の前年に『ELLE』も公開されている。

「男の虚勢と女のたくましさ」を描いた作品をもっと観たいな。
南