Kirisshy88

ザ・スクエア 思いやりの聖域のKirisshy88のレビュー・感想・評価

3.3
現代アートとアートビジネス、クレーマー団体をそれぞれ批判的に描いている点は好感が持てる。しかし、その結論が「日常生活の身近な平等や思いやりこそが大切」と言った拍子抜けするような教訓になってしまっており、結局のところ、大部分を占めるアートビジネス・アートシーンが伏線になっていない。

要するに街頭で起こった最初の「掏り(スリ)」と「町の一子供の結末」が映画の本旨で、中間部分はアートの代わりに社会学(者)や文芸評論(家)などでも構わない。肝心のアートシーンはどこに行ってしまったのだろうか。

アートシーン・アートビジネスについては実話もアレンジして色々と盛り込まれたようだが、本作のように特異な話ばかりを蒐集すると、かって大袈裟になり興ざめしてしまう。肝心の現代美術や作品解釈を巡る論争もあまり深みがない。全般的にデュシャンからトム・ウルフを知っていれば理解可能な大衆的な話題であり、さして芸術を語るような内容にはなっていない。決して悪い映画ではないし、画作りは良いので芸術論争で頑張って欲しかった。
しいて言えば、「一部の稚拙な売れっ子作家よりも広告代理店の方が現代美術を理解している」点が業界裏側暴露の見どころといったところであろう。

本映画の作者がアートに好意がないのか、美術全般に対して木を見て森を全否定するような映画になってしまっている・・・
むしろ映画の次世代を考えるのならば、本作品の各受賞経緯を本作品の内容から邪推するような映画があっても良いのかもしれない。
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