けーはち

映画 中二病でも恋がしたい Take On Meのけーはちのレビュー・感想・評価

3.9
六花かわいいよ六花。ヒロイン六花を演じる声優・内田真礼の技量(あるいは天然)もあいまって、抱きしめてやりたい、その儚げで頼りなく細い身体を俺が守護らねばならぬ、という父性(勘違い)をかきたてさせるナチュラルボーンお花畑ヒロインっぷりは白眉の出来。つまり、主人公が「男」として成長するに値するキュートなヒロイン。それがリベラル・フェミニズム側にしてみれば旧態依然とした男女観であると言われるのは分かっている。分かってはいるのだが……もう難しいことを言わずに、アッパッパーなラブコメとしては大勝利である。

そんな主人公カップルの甘酸っぱい恋愛を主軸に、百合や本作特有の中二病バトル描写もふんだんに盛り込み、京アニ作画力による日本各地の風景美術を魅せつけ、また京アニ他作品へのオマージュといった遊び心が発揮された青春ロード・ムービー、そしてロマンティック・コメディとしてもTVシリーズの完結編としても満足のいくアニメ映画の佳作。

ラノベ原作アニメの完全新作劇場版であり、例によって元々の作品のファンしか見ない前提ではあるのだが、少しばかり本作について説明していきたい。

★「中二病」について

「中二病」なる単語は、伊集院光がラジオ番組で生み出した造語で、原義は中学二年ぐらいになって、周りとは違う趣味を始めたり背伸びをしたがる現象のこと。

マニアックな洋楽などを急に嗜み始める、ムズかしい理論や話題にやたら関心を持って生半可な理解で語りだす──など、思春期のアイデンティティの確立の過程で起きる諸々の試行錯誤・迷走行為を大人になって振り返ってみて羞恥を感じつつ、誰もが一度はかかる、はしかのような「病」と呼んだものである。

いつしかそれがバズワードとして、多様な使われ方をし始め、最近は幼児性、未熟な全能感や自分の殻に閉じこもる内向性、あるいは漫画やアニメ、ゲームなどに影響されたSF・ファンタジー世界などが混合され、「自分には魔法の力がある」「学校を襲ってきたテロリストを退治する」等、非現実的な空想・妄想世界に浸ることを言う。「神の声が聴こえる」って言ったジャンヌ・ダルクだって要は中二病なのだろうが、現代日本においてはもう少し俗っぽく、ドレス風な装飾過多(ゴスロリ)の服を着たり、独特の世界観を持つ「不思議ちゃん」と言われるようなキャラクターを濃くした感じがそれである。

誰だって「自分は特別だ」と思いたいのは当然。しかし大抵はジャンヌ・ダルクみたいに狂信を貫き通す本物ではありえない。いずれ平凡な自分という現実を受け入れ、それなりに社会と折り合いをつけ、うまくやっていく必要がある。それを高校生になってもできず、世間から浮いている女の子が、右目に眼帯をいつもしている本作のヒロイン・小鳥遊六花である。

★『中二恋』について

『中二病でも恋がしたい!』(略称中二恋)は、元中二病、今は普通の高校生の主人公・勇太が現役中二病患者(眼帯の下に「邪気眼」の一種「邪王真眼」を持つという脳内設定)のヒロイン・六花と恋をする。風変わりな青春恋愛ライト・ノベル。

深く考えずバズワードを軽く拾っただけの一発芸的な作品だが、アニメ化するにあたって「六花の中二病は父の死のトラウマからの逃避」という重めの(誰得シリアスと呼ばれる)設定が付与された結果、賛否両論はあるようだ。勇太にちゃんと男として父性を引き受けさせようという意図のある改変で私的には好ましく思う。

とまれ、TVシリーズは2シーズン放映したが依然としてキスも未遂の初々しいカップルであるにもかかわらず、本劇場版では日本を横断する、「愛の逃避行」を遂げることになる。

★本作のあらまし

六花は父親の死後、姉と二人暮らしをしていたのだが、腕利き料理人である姉がイタリアに店を構えることになったため、それに伴って彼女も一緒にイタリアに行くことを要求される。それに対し、勇太が彼女と一緒に日本に住み続けられるよう説得すべく、実家の北海道に戻った彼女の母親に会いに行く。それを追いかける姉とその手下たちの追走劇というスラップスティック・コメディが軸になる。

父親が亡くなったところで高校生の娘を残して離散する家庭は普通に考えると機能不全もいいところだが、漫画やライト・ノベル、特にラブコメ系ではシチュエーションの都合で未成年を独りにするのはままあることで、マジメに捉えすぎてはいけない。両親(母親と、本作の場合、父親亡き後父性を背負わされた姉)に男女交際を公認させるというイベントが重要である。

京アニ制作のアニメ作品では舞台を京都に改変することがあり、本作も京都から京都→兵庫→和歌山→東京→北海道→青森と旅をする。その中で六花はモノトーンや濃い目のゴスロリから段々淡い自然な色の服に変わっていく。『スター・ウォーズ』エピソード4から6にかけてルークが暗黒面と戦ううちに黒色の衣服に変わっていくように登場人物の変化を視覚的に表していると言える。

最終的に六花はアイデンティティである(と思っている)中二病とゴス服を再び身に纏い、そこから勇太との恋愛関係にいかなる結論を出すのかが本作のクライマックスになる。清々しい彼らの最終結論(高校生の恋愛なんて最終的には分からないわけだけど少なくともそう思える)とともに最高にロマンティックなシチュエーションでのラストシーンは久々に正統派のラブコメアニメの決着を見た気分になる。

並行してTVシリーズからの部活仲間たちのキャラクターもきちんと立っていて旧作からのファンも大満足なのではないかと思う。反面、TVシリーズ2シーズン分の蓄積を前提とした作品になっているので、一般的におススメできる度合いは下がるものの、総じて良い作品の部類だと思う。