ちろる

ALOYS/アロイスのちろるのレビュー・感想・評価

ALOYS/アロイス(2016年製作の映画)
3.8
殺風景で孤独な生活。
余計なものは何もない、必要もない。
予定通りに仕事をこなし、予定通りに帰って寝るだけ。それだけで完璧な人生 の、はずだった・・・

父親を失っても涙すら流さず無表情で棺を撮影するアロイス。
私立探偵のアロイスの静かな日々は、バスで寝過ごして盗撮したテープを盗まれ、謎の女性のから電話がきた日から豹変する。
感情がとうに死んでしまったかのようなアロイスが彼の(完璧なつもりだった)生活を嘲笑われるような声に翻弄され、少しずつ不安と恐怖→やがて女性への興味と変化していく繊細な演出がユニーク。
「一緒にテレフォンウォーキングしましょう。」
日本の精神科医が開発したというその不思議なセッションの誘いに、現実と妄想が混乱していく。
アロイスが声の主を探し求めるうちに音のかけらを拾い集めていくうちに彼は一つの結論にたどり着く。

”私たちを動かす全ては、その頭の中にある”
と、言って孤独だったアロイスを果てしない想像力の世界へ誘っていく謎の女はアロイスが見ていたこれまでの世界は180度変わっていくのだけど、この作品の映像のセンスがとても好きだ。
目を瞑れば果てしなく緑が広がる美しさ森の中へ行き、また目を瞑れば話しかけたこともない顔見知りが仲間となり彼をパーティーの世界に誘う。

孤独は現実と遮断していくものだと思っていたアロイスは、「想像力」で現実へ飛び立つ術を身につける。
現実と遠く離れた場所にいた彼が、自ら生々しい現実に目を向ける時、美しい人間らしい感情がむき出しになるラストに心が熱くなった。
計算された構図と、寂しげな空気感が漂うなんとも独特なトビアス・ノエル監督の紡ぐ世界。
不思議な映像に没入したい方におすすめです。
ちろる

ちろる